口から出たのは自分でも驚くくらい情けない台詞だった。舌打ちして取り繕う。

"渡り坑"を抜ける最中、幾重にもぶれた意識の中で再生されたのはあの日の記憶だった。
母さんとのタンデム。純白のハイドラに乗って少し離れた滝―降る途中で霧となって虹があたりにかかる―を眺めにいく途中で、起こったこと。
思い出したくもない。

むこうは戸惑う様子もなく通信を続けている。
男とも女ともとれないやけに無機質な声。年齢もわからない。旧式の装備を使っているのだろうか、声に時折金属質のノイズが混じった。

ディレイゾという名前だった。聞き覚えはない。

互いの機体状況を確認する中でまた一つ奇妙なことが分かった。一定以上距離を取ると、あちらの機体にエラーが生じるらしい。
詳しいことはわからないが、私たちは否応なく共に行動することになった。

少なくともまともな整備工場のある場所まで移動しなくてはならない。しかし呑気な旅というわけにもいかない。追手はどうやらこちらをロストしてくれたようだが、あたりには山賊紛いの野良機体がうようよしているからだ。
幸い打ち捨てられたベースメントからわずかばかりの補給物資は確保できたけれど、油断はならない。

あいも変わらず無遠慮にインヴェーションに刺さったドリルを見る。
わずかに震動しているように思えた。ため息をついてかぶりを振る。煙草がわりにボールペンの背をかじった。
うなじがきりきりと痒い。

とにもかくにも、こうして私とディレイゾの奇妙な旅は始まったのだった。