あれは……いつのことだっただろう。
私、シェガーガート＝バレットはいつものように、戦場にいた。



お兄ちゃんがいなくなってから、随分経ったような気がする。
私はお兄ちゃんが残していった、兵装実験用ウォーハイドラ『ドゥラーレ』に乗って、ハイドラライダーとなって、傭兵として戦場で戦った。

私は目が見えない。
それでも、この機体があれば、お兄ちゃんの方が私を見つけてくれるかもしれない。
だから、私はずっと戦った。
もし、お兄ちゃんが戻りたくなかったとしたら……
そんな不安を押し殺して、ずっと待っていた。



…
……
………



「今回の仕事は、施設を防衛する敵勢力の排除だ」


僕は、耳だけをそちらに向けて、作戦の内容を聞く。


「拠点の防衛設備の無力化が仕事だが、敵勢力もウォーハイドラを投入してくる可能性がある。十分に注意しろ」


「……了解」


僕はいつものようにウォーハイドラに乗り込む。

不安はない。
人を撃つことにも躊躇いはない。
僕にはお金が必要だ。


…妹の治療費を稼がなければならない。
それが僕に出来る、唯一の贖罪だ。
こんなことで許してもらえるとも思わない。
妹に合わせる顔もない。
治療費と、今後の暮しに十分な金額を送った後、僕は彼女の前から消えるだろう。


「……気を付けろ、やはり敵ウォーハイドラだ」


戦闘を開始してから数分、通信が入る。
拠点の防衛装置はホークアイによって殆どが無力化され、残るはあのウォーハイドラだけだ。

逆光に敵機が鈍く光る。
大丈夫、逆光くらいで僕の射撃は鈍らない。
装甲は硬そうだが、僕にとってはただの的に過ぎない。
一撃で無力化、二撃あればあの機体を完全に仕留めることができるだろう。

銃を構え、狙いをつける。
スコープを覗き込めば、逆光のむこうに敵機が見える。



「……！？　あれは……ドゥラーレ…！？」


一瞬の隙だった。
僕は引き金を引くのを躊躇った。


「……そこだね！」


「！！」


ドゥラーレの重火器が火を噴き、弾丸は僕の機体を正確に貫いた。
イデアーレは黒煙を上げて爆散する。



シェガーガートが、この時に撃墜した敵機のライダーの名を知ったのは、このすぐ後だった。
ドゥラーレから降りて、黒煙の嫌な臭いの中に、確かに懐かしい匂いがあった。


連れ帰ったホークアイは奇跡的に生きていた。
だが彼は目を覚ました時、シェガーガートに向かって言った。


「君は、誰？」と。