デカい竪穴を金属の縄を伝って降りること数分数分、ってとこかね。ようやっと地面が見えてきた。と言ってもやっぱり相変わらずの金属製の床で、どうにも落ち着かん訳だが。
　嫌だねぇ……産まれてコレまで殆どを地に足ついた生き方してきた訳だが、この金属の床は慣れないもんだな。無駄に硬いし、冷てぇし。やっぱり俺は木製の床なり土やら石やらの地面とかのほうが安心するぜ。これはもう、野蛮人と言われようが何だろうが死ぬまで変わりそうもない所だろうか。


「しっかし、ブツは見つかったが動かねぇってのもなぁ」


　穴の一番底から繋がる通路の先に、巨大なモニュメントチックな『門』はそびえていた。巨大な石と金属やらなんやらで構成されたソレは、一見すると美術品の類みたいではあったが。


「これが『星海ゲート』か。改めて見るとデカいもんだな」

「アレだけの機械兵器を運搬できる様になっていたんだ。まあ当然といえば当然だろうさ」


　もっとも、リューン側の遺跡にあった門に比べるとコイツは幾分小さい気がしたが。コイツさえ上手く動いてくれたら今にも宿に帰れるんだがね。
　そんな複雑な想いを巡らせる俺をよそに、ファストはというとさっさと『門』の直ぐ側を通りすぎてこの広間に隣接した小部屋に入っていく。門が鎮座する大きな部屋を中心に左右に四部屋ずつ……つまり小部屋は合計八部屋在るわけだ。その中のどれかに交換用のパーツがアレば俺達的には万々歳なのだが。


「ガル、お前も手伝え」

「あいよ」


　何をサボってるんだ殺すぞ、とでも言いたげな眼光を受け流しつつ俺は別の小部屋へと足を向けた。いやはや、ココで逆らったら後が怖いからな。とりあえずは大人しく調査を進めるとするかね。





※　　※　　※　　※　　※





「見つからねぇなぁ」


　結論から言おう。
　調べ始めて早、数時間が立った訳だが狙ったパーツらしきものはとんと見つかっていなかった。

　多少は休憩も取らねぇと腹も減ってくる。ファストと二人で適当な機械の切れ端を椅子代わりに、大部屋の片隅に座り込んで持ってきた食い物を食べた。
　中身は簡単なサンドイッチだ。野菜やらハムやらチーズやらを焼いた食パンで挟むだけ、というシンプルなシロモノだが。それにしたって疲労の貯まる身体にはありがてぇ栄養補給源ではある。荷物袋から水筒をとりだし、中身を木のコップに注ぐ。出発前に用意した甘めの紅茶が、疲労の溜まった身体にじんわり染みこむ気がした。


「これで暖かかったら最高なんだがなぁ」

「保温機能はついてないよ。贅沢は言えない」


　同じように隣で紅茶を飲むファストは門を見上げている。


「コレがあん時動いてたのが嘘みてぇに静かだよな」

「確かに」


　ココに飛ばされた当初、周囲は機械の駆動音で五月蠅いほどだった。実際に警備用の機械兵器なんかもいっぱい出てきて抜け出すのに大層苦労した記憶はある。ソレが今は嘘のように静かだ。生き物が好んで住むような環境でも無いせいで、喋っていないと殆んど無音というのは正直気持ちが悪い。


「いったい何が違うってんだかねぇ……」


　言って、ふと大広間を見回していた俺はポツリと呟く。


「……そういや、あん時はやたら『霧』が立ち込めてたのに今は嘘見てぇに綺麗なもんだな。お陰で、『門』もしっかり見えるってなもんだが」

「『霧』……？」


　その言葉にファストが反応する。顔を上げ、門を見ていたかと思えば天井やら周囲をまじまじと見返して……唐突に立ち上がった。かと思えば近くの小部屋に足早に向かっていく。
　一体なんだって言うんだ？　いやまあ、コイツのスイッチが急に入るのは何も今に限ったことじゃないが。それにしたって何が今のコイツを駆り立ててるのかは気になる。俺は慌てて立ち上がるとその背を追った。


「おい、ファスト！　どうしたってんだよ急に」

「……かも、しれない」

「ァア？」

「帰れるかもしれない。そう言った」


　まだ確証はないけれどもね。
　そういうアイツの顔は確かに、真剣そのものだった。