いつのだか解らない、数年前の手帳を開いて契約終了日に丸をする。気付けばすぐそこだ。あっと言う間だったなと思ったけれど、カレンダーを見ても改めて思う、長いようで短い時間だった。今日で12日目。あと3日。隊長の話は相変わらず聞けてないけれど、何も言ってこないところをみると、予定通り15日間でおしまいなのだろう。後で先輩と話をして、クレジットを受け取りにいかないと。使わせてもらっていた待機室の、さんざん散らかした荷物をひとまとめにする。結局、此処でも手掛かりは得られなかった。まだ時間はあるけれど、多分得られないだろうと思う。何処かで――それを望んでいる自分が居るのを、私はそろそろ認めなければならないのかも知れなかった。いつか読んだ少女マンガみたいに、現実と此処とを行き来できればいいのに。

　ミッションに挑む前にクトレットラの装備を確認する。すぐ傍では先輩が、ゼーゲンの装備を同じように確認している。私は、ロボットに乗るのが夢だった。他の友達が魔法少女やお姫様に憧れを抱いている時期に心惹かれたのは、二足歩行のロボットだった。人が乗って、動かして、街や世界を守るような。私の行いで人の命がどれだけ失われたのだろう？それともあの感情も豊かな敵機たちは、すごいAIを積んだ無人機だったりするのだろうか。いずれにしても此処でこのままハイドラ乗りを続けていくなら、いつかは生身の人を撃つ日もくるだろう。戦うという事の現実を知った。今までぼんやりと霧のようにあやふやだった世界を、戦場を、端とは言え体験した。今更、何も出来ずに傭兵隊に付いて回るだけの“お客様”には戻れないのだから。

　いつか帰るところ。

　そんなフレーズの登場したゲームが、あった気がする。帰る場所の話をした時に先輩が浮かべた寂しげな表情を、不意に思い出した。ちらりと横目で見遣った先輩は、真剣な表情で確認を進めている。今回のミッションは少しだけ大変なものになる――と、聞いていた。足を引っ張らぬようにと、私も手元のチェックリストと装備を見比べてペンを走らせる。私が……もし、帰る手立てを見つけても帰らないと、此処に居たいと告げたら。先輩はどんな顔をするのだろう。