ENo.0059　Dalince=Orban

「いらっしゃいませ！ 現在、新作掃除機『Dalince』の試運転中です。どうぞお近くでご覧になってください！」
あの日、私はいつものように営業スタッフとして電器屋で自社の新作掃除機の宣伝をしていた。

Dalince=Orban。
ミミズク電器が掲げる『新世代家電』のうちの一つ、『掃除機の常識を覆す掃除機』。
その名の通り、従来の掃除機では考えられない機能の数々が特徴だ。『掃除』と名の付く全てをこれだけで賄える、と言えば伝わるだろうか。その反動として消費電力が甚大だが、ここは今後開発部が改良してくれることだろう。

「すみません、少々お時間よろしいでしょうか？」
「はい、何でしょうか……ッ！？」
興味を持ってくれた客に話しかけようとしたその時、私はこの霧深い戦場に紛れ込んでしまったのだ。特に何をしていたわけでもない。強いて言うなら昨日帰ってやけ酒をしてしまったぐらいだが、二日酔いで別世界移動なんて馬鹿げている。
私は実演販売用の掃除機を持ったまま、霧の中に立ち尽くすしかなかった。首にかけていた社員証はいつの間にか別のものにすり替わっている。
「Hydra Rider License……？」
そう読める文字の下には、管理番号らしき数字と自分の名前。
そこに目を通したとき、なぜか自分のなすべきことが手に取るように分かった……気がした。
「気味が悪いね……まぁ、折角だし楽しもうと思うけど、ね」