ENo.0406　ファイブカード

ごうんごうんと、人気のない霧の中に駆動音が響く。

次いで姿を見せるのは、履帯を備えた平たく重厚な機体。

側面には不揃いな砲銃が五門並び、今は全て地を向き黙している。
幾らの向こうも見渡せないほどの霧に満ちた、そんなありふれた風景の中をゆっくりと横切る。

識別名を“ファイブカード”。
遠くの昔に主を得られず廃棄され、緩やかに朽ちていくばかりだったウォーハイドラ。



今はその操縦棺に男が在る。
かつての、やはり遠くの昔の乗り手の一人。

ファイブカードよりもずっと早くに世を去ったはずの彼の顔立ちは窺い知れず、
しかし確かにその手でウォーハイドラを操っている。



死にゆくはずの機体に死んだはずの乗り手。
朧げで曖昧であやふやな、霧のあわいに浮かぶような者たちは、今はただ静かに歩みを進めている。