ENo.0345　ミソカ・ヤナガセ

－　Day2　－



「はいはい、お疲れさん……さて、俺の取り分はどれくらいですかね？」


敵機の殲滅を確認してそのセリフを口にしたのが１日前。
早朝から格納庫の床に座り込んでミソカは難しい顔をしていた。


「なぁーにが足りないんですかねぇ」


唇で薄く挟んだ煙草を上下に揺らしつつ見上げる巨躯。
社運を背負った相棒『トリーギンター』だ。


ミソカ本人の意見も取り入れ、サソリを模して設計されたウォーハイドラである。
多脚型による悪路走行性能、地形効果に影響を受けにくい安定した射撃姿勢の確保。
大口径砲の仕込まれた巨大な尾は幅広い射角と旋回性能を持つ。
また、大口径砲による長距離射撃に加え、強固なハサミ状の触肢による近接格闘も可能。
そして全身は霧に紛れる薄い灰色に塗装されている。

可動パーツが多いため制御系の複雑さ、点検整備の煩雑さもあり、
両方の知識・適正を満たしたミソカが選ばれたと言うわけだが……


「センサーに出力を回しすぎ……？いやいや、霧による威力減衰？」


そんな相棒の戦闘データを見返して改善点に頭を抱えているのだ。
防御面に関して、積層装甲による被害軽減率は設計データ以上。
尾の旋回性能による標的補足率も問題はない。
ただ、射撃武装の火力面で不安が残る物となっていた。


「どうしたもんですかねー……ねぇ、ギンちゃん」


コンソールからケーブルで繋いだパッドを傍らに放り出し足を投げ出す。
紫煙越しに相棒の頭部、操縦棺ハッチに赤で刻まれた「ⅩⅩⅩ」のマークが滲む。

これは、ミソカが手掛けた物に記すサインや、
非映像通信時の機体識別サインとしても使われており、
単純に３０を表す物であり、トリーギンターであり、ミソカなのである。
しかし霧に紛れるように灰色で塗装されているのにもかかわらず、
勝手に赤で殴り書きしたせいで台無し感は否めない。

暫く唸った後、視界を遮る紫煙を噴いて飛ばすと煙草を灰皿に投げ込み、
放ったパッドを横着にケーブルを引っ張って手元に寄せた。


「そう言えば、パーツカタログなんても物もありましたかね」


今、手元にある資材で出来ることには限りがある。
それならば他人の知恵と技術に素直に頼ることも時に必要である。

今求めるのは機体性能とマッチした射撃武装。
ガス欠にならない程度の出力と、機動性を損なわない取り回しの良さ。
希望を言えばキリが無いが、希望を込めてマーケットのタブをタップした。


「霧はあるのにキリはない～♪」


静まり返った格納庫に恥ずかしげな咳払いが響いたのを、
トリーギンターの音響センサだけが捕らえていた――