ENo.0378　フレイド・コークス

　合流地点とした場所に定刻通り彼女は現れた。
残念ながらこの眼でその戦いぶりを見ることは出来なかったが、予想通り、敵群に向かって猪突猛進していたようである。
機体には幾つかの損傷個所が見られた。

自分の命を顧みないその戦闘姿勢は、全くもって私の理想とする人材なのだが。
一方で、必然として死の危険性と紙一重でもある。
時の気紛れ次第では、明日にでも宇宙の藻屑になるのは容易に想像できることであった。

私は自機を彼女の支援向けに整備することにした。
彼女の戦闘姿勢を変えることは好ましくない。
ならば、私が彼女を失わないように支えれば良いのだ。

暫く思案した結果、戦場で彼女の機体へ向く敵の視点を分散させるべきだと思い至った。
猪突猛進な機体が一機ならば、その機体への攻撃は集中するだろう。
しかし、猪突猛進する機体が二機ならば1/2になる。
馬鹿馬鹿しい論理だが、そういうものだ。

私自身の目的は戦果を華々しく挙げることではない。
故に戦場の矢面に立つ意味は無いのだが、どうやら、彼女を僚機として選んだ以上、最前線に立つことは避けられないらしい。

いや、正確には避けたくないのだろう。
彼女の損失は＝して、私の失われた記憶の損失でもある。
私はどうしても、過去の記憶を取り戻したいのだ。
それは自分自身の死の可能性さえも天秤に載せるほどに。

義眼となった左眼を手で押さえた。

失われた身体の部位を確認する度に、かつての私が思っていた「死ねない」という想いへの疑問が湧きおこる。
なぜ、以前の私はそれほどまでに死を恐れたのだろうか？
なぜ、戦場に出たのか？

皮肉である。
今の私は死をそれほど恐れてはいない。
だからこそ、かつての記憶を取り戻す為に、死の可能性を許容する。
そして、それはラキア・パラミダスが自身の家の名誉の為に戦う行為と似ているのだと気付く。
そう、彼女もまた死の可能性を天秤に載せてでも得たいものがあるのだ。