ENo.0249　キース・コリンズ

　夢を見てたみてえだ。詰所の寝心地がクソ悪いベッドが寝汗でにじんでるところを見るとどうやら悪夢だったようだが、まあよく覚えてねえあたり大した夢じゃねえんだろう。
　不快に湿ったタンクトップが張り付いた上半身を起こして辺りを見渡す。いつもの詰所。見慣れた風景。この世界に迷い込んでからオレが住んでる場所で貸し倉庫に直結してるなんやかんやと便利な場所だ。
「もう5年か…」
　悪夢を見たせいかは知らんが今更なことを呟いちまう。今でこそ住み慣れちまったが、ジャンクフード漬けだったスラム暮らしもまだ昨日の事のように覚えてるから不思議なもんだ。
「アイツ、元気にしてっかなァ」
　ふと5年会ってない弟の顔が浮かぶのは最近の実入りがクソ過ぎて漠然とした不安を覚えているからだろうか。それとも、唯一の肉親を元居たスラムに置いてきてしまった後悔がオレの頭の片隅にあるのか。何にしても、
「―――おっと」
　出撃のサイレンが鳴り響く。まあいつものお仕事の時間だ。
　両の頬をひっぱたいてベッドから立ち上がる。汗臭ぇタンクトップの上にカビ臭ぇジャケットを羽織ると、くせえはずなのに妙な気合が入る。
　ぶっ壊して奪って金を貰う。それがここ一週間で組まれたオレのルーチン。
　弱気な頭に浮かんだ唯一の肉親の顔を払拭し、俺は詰所を後にした。




【キースの手記】

関係者の名簿にナヅナのババアの名前があったから声かけてみたんだが…あのババアついに耄碌したのかガキを矢面に立てたようだ。

にしても慣れない機体ってのは使いづらくていけねえな。デスケル重工が作った形式も分からねえような旧式だから操作性がクソなのはわかるんだが、シートはガムテープだらけだしガムテープには陰毛挟まってるしで一体前の持ち主はどんなヤツだったんだ。