ENo.0389　ムジカ・ネネウ

なにやら怪しい宗教的な機体であることは知っていた。
募集要項にきちんとそれは記載されていたし、俺はそれを了承したつもりだった。
確かに機体の方は半壊していてほとんどを汎用のパーツに置換する必要があったが、残っていた部分はまさに宗教的な意匠が多く施されていた。明らかに余剰積載の装飾も多くあったが、鉄の塊である基本構造部分の重量から見れば誤差でしかないし、この残像領域において、意外とそういうよくわからない部分というのが、どうしてか機能するのに必要不可欠であったりするのだから仕方がない。

しかし、まさか本当にこうして女装することになるとは。

化粧をするのは当然ながら初めてだった。与えられた準備金で化粧道具を買いに行くと、どの店でもプレゼントですか、と言われるか、聞かずともプレゼント用だと認識されて綺麗に梱包してくれた。あえて訂正する必要はなく、俺はそうして一通りの化粧道具を買いそろえた。
それからアーカイブで取得したメイクのマニュアルに従って練習し、次の作戦までに備えた。
雇い主のムジカ・ネネウはダウナーなタイプで、機嫌を損なうべきではないと判断し、一応は毎日メイクとウィッグをしっかりしてから機体の整備を行った。メイクはともかくウィッグが厄介で、とにかく頭が蒸れる。とにかく蒸れる。その上にヘルメットをするためかなり最悪だが、空調設備がしっかりしている分、まだマシかもしれない。
前回の作戦の首尾はまあまあといったところで、次はもう少し上手くやれるだろうとも思った。やはり適切なライセンスを持つウォーハイドラはあまりに強力で、次々と木っ端微塵になっていく戦闘ヘリを見ると、まさにあれに乗っていてもおかしくなかった過去の自分を重ねずにはいられなかった。
女装やらよくわからない宗教やら色々あるが、それでもベストと言っても差し支えがないくらい、俺は機嫌が良かった。

「明日の出撃準備はこれで完了した。どうだ、飯にでも食いに行かないか？」