ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「♪　♪　♪」
ウキウキとしたオーラを振り撒きながら冷たく無骨な格納庫へ入ってくる巻き毛の女
彼女は三度の飯より猫が好きだ
今まで職務上の都合で猫を飼う事はできなかった彼女　しかしある日上司から新たな仕事を与えられた
それはなんと猫の世話　あるウォーハイドラの格納庫に住み着いている猫の餌やりなどをしろとの事だ
まさに天職であった
聞けば巻き毛の女が無類の猫好きである事を知っていた同僚の推薦だという
巻き毛の女は感極まって同僚に猛烈にハグしてキスし拳骨をお見舞いされた

餌と水の補給とトイレの掃除　猫を世話するのが仕事なら全く苦ではない
夢中で食事にありつく白猫を眺めながら巻き毛の女はとろけるような笑みを浮かべた
ついでに猫の毛が目立つようなら軽く掃いて捨てるなりしてほしいと上司に言われた事を思い出す
白い花弁のような六本の脚を広げて佇むウォーハイドラ　そのパイロットがどうやら猫アレルギーらしい
巻き毛の女は清掃をはじめる
猫は餌を食べ終えると口の周りをぺろぺろ舐めて積まれたダンボールの上で箱座りした


背後から何かが開く機械音　滴る水
巻き毛の女は肩を跳ねさせた
恐る恐る振り返り音の正体を確かめる
ウォーハイドラの黒い操縦棺が開き液体が伝い落ちている
雪のように白い肌と髪　華奢な体　一瞬幽霊かと思ってしまう程に異様な佇まい
薄紅の瞳が巻き毛の女を捉える　端正な顔立ちは感情の一切が抜け落ちているように無機質に見えた


「………………あ？」
怪訝そうな声　彼はぴくりとも眉を動かさない
「誰お前」
巻き毛の女は所属と名前と職務を叫んだ
上から通達はいっているはずなのだが　このハイドラライダーは聞いていなかったのだろうか
「…………あ～～～～ok了解　てか別にどうでもいいわ　猫係でいいっしょ」
彼は操縦棺から出るとひたひた足音を立てて猫に近付く　猫を構いに出てきたようだ
巻き毛の女は掃除用具を持ったまま視線を彷徨わせる　少し言い淀んだ後に彼女は遠慮がちに口を開いた

「あ、あの～…………エリカ、さん？」
「ん」
「……何で服を着てないんですか？」
彼は一糸纏わぬ姿だった
「そりゃおめー風呂入っ時服着ねーべ」
「他人がいる時は服を着るものだと思うんですけど！」
「は～～～～～～～～～～？？？めんど　そっちから押しかけといて服着ろって何様な訳よ」

エリカは舌打ちしながらデスクの上の真っ白い布の塊を取って被る
V字に大きく開いた襟　長く広い袖に腕を通す　すとんと落ちた裾は比較的長身なエリカの膝下まであった
それ一枚の他は何も身につけようとしないようだ　彼はそのまま猫を撫でに行った
両手で猫の首元をわしゃわしゃする
猫は目を細めて顎を上げる　しばらくするとゴロゴロ喉を鳴らす音が聞こえてきた

巻き毛の女はほっと息をついた
上司からはハイドラライダーは気難しく猫アレルギーとだけ聞いていた
なぜアレルギー持ちがいる場所でわざわざ猫を飼うのか　もしかしたら猫が何か酷い目に合うかもと不安がっていた
しかし目の前の彼は非常に猫が好きらしい　巻き毛の女にはその撫で方でわかる
猫好きに悪い人は居ないと彼女は本気で思っていた
真顔で猫の耳をガブガブしたり吸引するエリカの様子を巻き毛の女は微笑ましく見つめていた



その後エリカは当然咳やら涙やらで大変な事になった
罵詈雑言を吐き捨てながら服をデスクの上に放り投げ操縦棺へ戻っていく
巻き毛の女は自分の身を顧みず猫を愛でる姿勢に感銘を受けた　彼女はアホだった
せめて多少なりとも楽になるよう清掃には力を入れよう　彼女はそう決意する
手始めに脱ぎ捨てられたエリカの服の上で丸まろうとする猫を謝りながら降ろし服の毛を払い落とした

*にゃー*