ENo.0076　マリエッタ

冒険者稼業、っていうのは、時に仕事の内容なんて選んでいられないわけで。
有名な冒険者だって、生活の為には汚れた仕事だってするものなのだ。

僕？
そりゃあ僕だって例外ではない。
これでも四千年近くも生きている身。様々な依頼、仕事をしてきた。

冒険者になろう、なんて考えもしなかった若かった頃。
僕は父の仕事を手伝う様に、王立図書館の司書として働いていた。
僕の持つ多くの知識はここで手に入れたもの。

別れた恋人に会わないようにと司書を辞めた後、少しの間街を離れる為に旅をする事にした。
知識があるから大丈夫だろうと軽率に冒険者となったのを直ぐに後悔したよ。

実際、知識だけじゃ上手くいくものじゃないのを身を以て知った。

数年くらい旅をして戻って来てからは王宮術師に志願した。
可もなく不可もなく。遠征なんかも多々経験したりした。
僕の術師としての経験と、状況把握、そして情報分析能力はここで得たもの。

まあ色々あって王宮術師を辞めた後は、広い世界が見てみたくなって、再び冒険者となった。

「冒険者駆け出しの頃は本当に色々したもんだ。」

それこそ、倉庫の整理やら掃除。護衛や運び屋、モノ探し、等々。
半日で終わるものもあれば、数日かけて、という物まで様々だった。

「……中には他人に言えないような仕事もあったねぇ。」

一体、いくつの幸せを壊しただろうか。
一体、いくつの愛を引き裂いただろうか。
一体、いくつの命を消しただろうか。

受ける依頼なんていつも“正義”なわけがない。
そして、その対象は、常に“魔物”や“動物”とは限らない。

　　―サイショニ　ヒト　ヲ　アヤメタノハ、“何時”ダッタ？―

「言い訳をさせて下サイ。最初のアレは仕方なく。殺らなきゃ僕が殺られていたもの。」

それでも後味良いわけなんてない。
けれど、そういった依頼を受け回数を重ねるうちに、徐々に感覚は麻痺していく。
曰く、返り血を浴びた僕の目は酷く病んだ目をしているのだとか。
……なんて言われても、僕は実際何も感じちゃいないんだ。

「酷い奴だよね。平気でヒトの命を奪える様な奴なんだよ、僕は。」

自分でも良く理解している。残虐な悪魔の様だって。……まあ、元々魔族の類なんだけれども。
悪魔の様だって自覚があるからかな。そういう依頼があった時は僕がそういう役回りになるように率先して引き受けた。
大切な仲間が、大切な身内が僕の様になってはならない。そう思って。

結局何が言いたいのかって言うと、あいつと一緒にいる猫？だか悪魔？だか。
どうにも僕が旅慣れしているのが不思議なようで。
それを過去を踏まえて話すべきかどうか、それを考えていたのだ。

別に話してもいいかな。
僕が平気でヒトを殺すとか、そういう仕事を淡々と出来る奴だとか、そういうのを知られたくないとかはないし？

「寧ろ、知った時どういう反応するだろうかね。特にあの純粋そうな少年はさ。」

僕と何処か似たような性格のもう一人？匹？の悪魔の方はきっと薄い反応しかしないだろう。
僕も他人がこんな話してきたところで「ふーん」としか返さないだろうしね。

「レナは……。」

あいつはこんな僕だってわかったら、どうするのだろう。
軽蔑するだろうか……軽蔑して憑りつくのを止めるだろうか。

「だとしたら、願ったり叶ったりじゃないか。」

…………。

「……そうだよ、言えば、きっとあいつは離れていく。」

……、嫌だ。そんなのは嫌だ。知られたくない。やっぱり、知られたくない。
こんな汚い僕なのに、それでもあいつを、失いたくない。


ああ、ああ、なんて僕らしくない。


☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆

「ほんっとーに、僕らしくない！！気持ち悪いよ、僕！！」

過去を振り返って、そうして連鎖的に良くわからない思考に至って。それがまたドン引きする程に気持ち悪くて、
僕は色々な思考を絶つように勢いよく首を横に振って、そうして深く長い溜息を吐いた。