ENo.0381　ハンナ・コヴァルスカ

ハンナは自身のハイドラ、『ヴォイテック』を見つめる。
汚れた深緑のボディは、底知れぬ物があるような、そうでもないような雰囲気を漂わせていた。


領域殲滅兵器。
『ヴォイテック』に積まれた、唯一の攻撃兵器である。
これが積まれた理由は、大別すると二つであった。

一つ、デスケル重工社が、これのデータを必要としていたこと。
鹵獲兵器である領域殲滅兵器の分野だが、白兎社が他の会社をリードしていた。
デスケル重工社もこれに負けじと開発戦線に参戦していた為、使用データを取って送ることは、必要不可欠であった。

一つ、領域殲滅兵器は、一対多に有利であったこと。
それ自体が索敵し、対象を攻撃するこの兵器は、仮に囲まれたとしても有効に働いてくれた。
これならば、多くを攻撃できない格闘機や、射線がどうしても一方向になる射撃機と比べて、生き延びる目が出て来る。

そして、ハンナ自身、他のハイドラライダーに比べて、格闘や射撃の扱いに優れてはいなかったこと。
これら三つがまとめて、ハンナの知り得る理由であった。


一方、ハンナはこの兵器を見た瞬間に、運命的な物を感じていた。
言い様がないそれは、ハンナにこれを搭載するだけの理由を与えてくれたのだった。

領域殲滅兵器には、明確に一つの弱点が存在している。
多い噴霧量。
これは高い殺傷能力と引き換えに、電子の攻撃によって致命傷を負う可能性を生んでいた。

ハンナの父親は、霧深い戦場で、アンテナの電子攻撃によって殺された。
その死に方は、彼女の知り得ない、深層心理に影響し、第二の理由となっていた。

外からは隔絶されている、不確定な領域。
鉄筋コンクリートで作られた大きめのトーチカで、塗装された白い壁には『ナマズくん』と呼ばれる謎の生物が描いてある。
椅子と机も数個置いてあり、上には筆記用具が置かれる。
トーチカの端にはスプレー缶も並ぶ。

貴方はここが“残像領域”に存在しているものとして認識してもいいし、認識しなくてもいい。