ENo.0325　小夜啼鳥

腕の中で、ひとつの命が消えていく様を見届ける。

柔らかな毛並みの、瞳がつぶらな、愛くるしいこのコの命を絶ったのは間違いなく私。

豊かな肉、全てを贅沢に残して、中にある僅かな液体だけを啜り、殺した。

喉越しは悪く、鼻に抜ける匂いは腐り濁る汚水のようで、一山幾らで投げ売られる安物の肉が、今となっては高級牛に近しいものに思える。

吐き気を覚えて口元を抑え、獣の死体を抱えながら闇と霧の中、蹲る。
えずき、体内から逆流しそうになる液体を何とか押し込め、背を丸めながら体が落ち着くのを暫し待った。



苦痛でしかない、私の食事の時間が終わり、立ち上がる。



「サぁ。クドラト様のもとへ。今宵も愛シて頂く為に」

残像領域の端、無法者やハイドラライダーの集う酒場。
人の生き死にを賭けのタネに、今晩も乱痴気騒ぎが繰り広げられている。
合成アルコールと正体不明のジャーキーが売れ筋。
まともな人間は寄り付こうともしないだろう。

美女がここに留まりたいと告げたことで、下卑た期待に満ちた口笛と、下品極まる野次が酒場を満たした。