ENo.0345　ミソカ・ヤナガセ

－　Day5　－



◆　◆　◆


その日は、霧が濃かったのを覚えている。


「※※※※、ごめんね――……」


霧に溶けるような白い服の女性が唇を歪ませた。
ツバの広い白い帽子で目元は見えない。
帽子からこぼれ、肩に掛かる長い黒髪だけが色を感じさせる。


「　　　　　？」


温かい布に包まれたまま思うように身動きも出来ず、
何かをその女性に伝えようとしたがそれは音にならない。
何も出来ずただただ見上げているだけだ。

そうこうしている内に、女性は霧に煙る後ろを何度か気にする素振り。
“もうすぐなんだ”と言うことは自分にも分かる。

何度か後ろとこちらへ視線を行き来させた後、女性がそっと手を伸ばす。
視界の端に触れたその手のひんやりとした感触……小刻みに震えていた。


「いつか、いつか私を迎えに来て……待ってるわ、※※※※……」


それが最後の言葉だったのを覚えている。
その女性は意を決したように踵を返すと、濃い霧の中へと歩を進めていく。


「　　　　　　　　　！」


その背中に何を訴えても言葉にはならない。
そして、知っている……2度と振り返って貰えないことを。

その後姿は霧の中に溶け、揺れる黒髪も境界が曖昧になる。


「　　　　　　　　　　！！」


思いだけが霧散する。
どれだけあがこうと、自分の口は堅く引き結ばれたままだ。



“まってよ、ねぇ！かあさん……！！”


何も見えなくなった霧の向こう。
届かなかった想いが頭の中で響いた――…



◆　◆　◆



『…………が動く時が来たようです≪霧笛の塔≫の議員の半数以上が
　企業連盟の出身者で構成され、もはや形骸化していると言っていいでしょう
　この状況は企業連盟が30年かけて≪霧笛の塔≫を……』


無機質な音声がニュースを読み上げている。
どうやら設計図を引いている内に眠ってしまっていた様だ。

固まった背筋を伸ばして立ち上がると、放置したまま冷めたコーヒーを飲み干す。
上半身脱ぎっぱなしのツナギを引きずって窓辺に立つと、
ブラインドの上昇スイッチを押すと共に煙草に火を着ける。


「今日は霧が濃い、か……」


そう呟いて吐き出した煙が、窓に映るミソカの姿を煙らせた。

シャッターにそんな紙が張られた工房。
パーツに添付されてるペラ紙の地図を辿るとココに着く。

※基本個人用ユニオンです。もし本当にパーツのご相談・クレームのある方はENo.345まで。