ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「旅は嫌いだ」

格納庫の中に響き渡る澄んだ声
巻き毛の女は首を傾げる　その手には猫じゃらしが握られていた

「嫌い、ですか？」
「ん」
エリカは操縦棺の中に引きこもっていた
彼の声は机上の端末を通して巻き毛の女の耳に届いている
「どうして旅が嫌いなんですか？」
「そりゃお前面倒だし自分インドア派なんで？出かけるより本読んでる方が性に合ってる？的な？？」
「旅を題材にした本ならどうでしょう」
「知らね～～～～～～～～そんなリア充的趣味ねーし読んでるうちに萎えてやめんじゃね　知らんけど」


巻き毛の女の仕事は二つ
一つはこのハイドラライダーの情緒面を観察する設備としての猫の維持
もう一つは少しでも多く彼に関する情報を手に入れる事
エリカとは彼を著しく不快にさせない範囲で積極的に会話をして意見を引き出すように命じられていた
彼女の上司である男は確かに変わり者ではあるが　普段はハイドラライダー一人にこのような対応をする性質ではない
むしろウォーハイドラのみを大事にし　それに搭乗する側は二束三文の使い捨てパーツとでも思っているに違いない
そう……普段なら

ヒースハイデはエリカの死後解体される
つまりエリカの死がヒースハイデの死であり代わりのパイロットはいない
巻き毛の女もその話は既に聞いていた　だから男が甘い対応をするのかとも思った
しかしそれが決定する前から男は普段なら考えられないような態度をとっていたのだ
考えてもその真意は巻き毛の女にはわからない
彼女は職務に集中する事にした
職務に集中と言ってもその実態は雑談と大好きな猫の世話であるが



「屋外が嫌いなんですね」
「そゆこと　引きこもり舐めんじゃねーわ」
「戦場に出る事は？」
「あっそれは別な　仕事だし？ぶっちゃけ戦場っつっても俺こん中から動いてねーし？」
「では仕事じゃなかったら？」
「あ～～～～～～　まあ　場合によるけど代わりいねーなら出るわ　戦争の道具は戦争に使わんと駄目っしょ」

彼はよくこのような発言をする
ハイドラは戦争の道具だと断言し戦争を嫌わない
巻き毛の女はてっきり彼は戦いを厭うタイプかと思っていたが違うらしい
確かにエリカは自らが戦うことを嫌っている
しかしそれは自分が戦闘に不向きであるからと思われる
自分は友軍の支援に徹し戦闘に向いた機体が積極的に戦うのを良しとする　それがエリカだった
ただこの前「自分ガチで戦闘向いてねーんで索敵全力投球な訳だけど正直暇じゃん？
　なんでとりま邪魔な霊場削っとくかーっつって適当に殴ったらなんか破壊した感じで爆笑」
などと言っていたので忌避感自体はないようだ



「てか猫係さ　やたら俺に質問ばっかしてくっけど何なん？」
「あっごめんなさい！　嫌だったらなるべく控えるようにしますけど……」
仕事なので本当に控えるつもりはあまりない
「や、別に？　聞いてもねーのに自分の事べらべら喋り散らされるよりマシっつーか　お好きにどうぞ的な」
「そうですか」
巻き毛の女は安堵して以降もエリカに色々な質問をした
エリカは特に嫌がる事もなくその質問に答え続けた
猫は巻き毛の女が持ち込んだ猫用ベッドで丸くなって眠っていた

*にゃー*

（猫用ベッドが置いてある）