ENo.0483　エフラム・アームスピニング

撃墜されて、地面にぶつかり、ひしゃげたハイドラが一機。
ぴくりとも動かないその横に、いつの間にか少女が立っていた。
風もないのにふわりと霧が流れ来て、彼女のワンピースがわずかに揺れる。

「エフラムさん、だいじょうぶー？」

能天気な呼びかけに、返事はない。
少女は一回首を傾げた後、特に表情を変えないまま手に持っていた大きな発条【ゼンマイ】をハイドラの上に差し込んだ。
ほとんど力を入れていないようにくるくると廻る発条は、けれど確かに金属を抉ってかちかちと小気味良い音を立てる。

それからしばらく。

「ぐあーっ！　いきなり撃沈かよ！！」

やたらと元気そうな声を上げて、ハイドラはがばりと起き上がった。
さっきまで、無人で打ち捨てられたかのような様子であったのに、がしゃがしゃと自分の脚で立ち上がっては準備運動のような動きを見せる。機体に引っ掛けた青い炎のランタンも煌々と燃え上がっていた。

「エフラムさん、だいじょうぶー？」

さっきと同じような少女の呼びかけ。
今度は、三本脚のハイドラはぐるんと振り返って軽快に答えた。

「おう！　ばっちりだ。さっさと次の戦場に行こうぜ！」