ENo.0295　リゼット・フォーレ

要塞戦の特別報酬が入っても、お財布事情は一向に改善されない。
ただ、ノクターンを改装していくのは楽しい。
ついついクレジットをつぎ込んでしまう程度には。

インセイリーに見られたら、たぶん呆れられるんじゃないかなとは思う。

クレジットだって目的のひとつだったはずなのに、目的と手段が反転している。
張りのある生活、と言えばなんとか格好がつくだろうか。
実際、戦場で弛んでいたら話にならないのだから、張りのある生活をし続ける必要はある。

歌うたいとしてママとふらふらしていたときよりも、規律正しい生活。
……というほど、規則正しく寝起きしているわけでもないけれど。出撃の日以外は。

ピリッとした緊張感はある。
身体の芯の方に、もう忘れられないだろう戦場の空気が密閉されているような感覚。
ノクターンの操縦棺に入ると、その蓋が開いて、棺の中が満たされていくような。

一歩足を踏み外したら、ジャンキーになってしまいそうだ。

そういう危機感が、少しだけある。
意識して、日常の空気を吸っていないと。

今日は “ブルイヤール” に歌いにいこう。

歌うたいをやめるつもりはない。
ママが、ライダーでありながら歌うたいであったように。
それはたぶん、日常と戦場を行き来するために必要なことだ。
歌えば、そのときだけは胸の内側をそれだけで満たすことができる。

あたしはいつか、歌うたいに戻る。
いつだかはわからないけれど、この、ライダーという憧れに決着がついたら。
たぶん、そうなる。
だから、歌を忘れない。戦いのさなかでも。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

紅色の髪の少女がバラードを歌っている。