ENo.0261　Solitus

――ソーナには、戦争はよくわからない。
戦争はよくわからないけれど、人が死ぬことだというのは理解している。

「…………」

ゆっくりと瞬きを一つして、ソーナはカナエが修理して使えるようになった情報端末をそっとテーブルの上に置いた。
大きな作戦が一つ終わってから、敵も手強くなってきたような気がしていたが、どうやらそれは気のせいではなかったらしい。
残像に姿を変えたハイドラライダーの数は、以前よりも確かに増えている。
残像に姿を変えたということは、それはつまり戦いの中で命を落としたということになる。
眠っているソリトゥスの足にもたれ、ソーナはゆっくり目を伏せる。

ソーナには戦争はよくわからない。
よくわからないけれど、悲しいことであることは理解している。
そして、たくさんの人が命を落とすことになるものだということも理解している。

――理解しているけれど、それだけだ。

戦争はよくないとか、そういう思いはソーナの中には存在していない。
相方であるカナエは「ソーナはおそらく戦争が嫌いだろうし人の死を知れば悲しむ」と思っているようだけれど、自分はそんなにいい子ではない。
戦争がよくないことや悲しいことである知識はあるけれど、ただ理解しているというだけで、そこに自分の感情は追いついてこない。
そもそもソーナは見知った存在以外が死んでも何も感じないし、どうにも思わないような子供だ。
自分でもおかしいとは思うし、何かが欠けているのだとは思うけれど、その正体がわからないし別に突き詰めようとも思っていない。
カナエが思っているソーナと、実際のソーナはあまりにも違うのだ。

そして、それはきっとカナエも同じだ。

自分たちは知り合って間もない。
お互いの傍を心地よく感じているけれど、お互いのことをあまりにも知らなさすぎる。
ソーナはカナエのことを知りたいと思っているけれど、きっとカナエには触れてほしくないと思っていることがたくさんあると思うから――彼のことを知りたいと口に出しても大丈夫なのかと、不安になってしまう。

「……テイのこと、もっといっぱい知れたらいいのに……」

目を細め、ぽつりと呟く。
小さな声での呟きは静寂へ溶けて、やがて消えていった。