ENo.0119　Sid

「コノ辺りハ人モ機械モイマセンね。ドウシタモノデしょウか」
言葉を弾ませながらトゥーシェは語りかけてくる。
話している内容は明らかに芳しくないのに、この状況に対して些かの不満を抱いていないのが聞いてとれる。

—あの要塞戦以来、あいつの様子がどこかおかしい。
いやその前から、僕に付いてきている時点で何かがおかしいのだが、やたらと過保護で、やたらと僕のことを気にかけている気がする。
そして時折、周囲を威圧する気配を発する。
・・・まるで何かを警戒するかのように。
　　　　　　　僕たちに近寄るな、と警告を発するように。
頭があった場所には不格好な銀色のパラボラが二つ、激しく自己主張をしながらまぶしい太陽光を鈍色に跳ね返していた。

—そう言えば、頭のそれ、増えたな。
「コチラでゴザイマスカ？」
トゥーシェは[にこやか]の表情でこちらを向く。
「セッカクナノで頂イテミマシタ。視界良好で私モ満足デす。」

旧式だったとはいえ先の戦でボロボロになった機体。
この辺りに来たときの部品はほとんどがとれたり、行方不明になったり、新しいパーツを継ぎ足してどうにか形を保っている。
二つあった腕も片方は失い、もう片方もいつネジが外れてもおかしくない。
くっつけてきたレーダーだけがやたら新しい銀色を呈している。

「ドウカシマシタか、ボッチャん？」
—いや、最近暑い日が続くなと思って。
「ソウデゴザイマすね、コノアタリは水辺モ遠イヨウですネ。ワタクシめもオーバーヒートに注意シナクテはナリマセン。」

そっとパラボラに触れてみる。
まぶしい陽射しがじんわりと手のひらに伝わってくる。

「？」
トゥーシェが[困惑]の表情をこちらに向けてくる。
ーいや、なんでもないんだ、トゥーシェ。

「ボッチャんは何モ心配ナサル事はアリマセン。
　　ボッチャんに感情がナイのナラ、私がアナタの心とナリマショウ。
ボッチャんの目ガ見エヌと言うナラ、私がアナタの目とナリマショウ。

　　　全てはゴルディエンの導くままに。」

—もう少し暑い日が続くみたいだ。日陰を探そう。

「仰セノママに。」

心に敵う適性を。