ENo.0204　漆生

「ねえねえ、モリオンさんって...」
「呼び捨てで良いよ。それで、何かな」
「ねえねえモリオン、前からそれ系の仕事してたの」
「それ系って、技術者かって言いたいのかい。んー、半々かね。メインにはしてないよ」
「そうなんだ、やっぱりフォーダイトさんとかみたいに忙しいのかな。モリオンのこと見たことない...ていうか、聞いたことなかったから」
「ああ、それは...俺の存在がトップシークレットだからさ。いくら上層部があいつを頼りにしているからと言っても、余計なことを吹き込みたくない時もあるのさ。彼等に黙って隠れて俺に指令を出しているんだよ」
「な、なるほど...!あのヒト、プライド高いし頑固だもんね...!」
「後で聞かれても知らないぞ」
「えぇ～!!」
　絶え間なく続くナナキとモリオンの会話は、質問責めというよりは談話であった。怪訝な表情は最早消え失せ、無邪気に問答する様子は歳の割に幼く見えたことだろう。
　時々誤魔化した風な表現もあったものの、モリオンは終始穏やかな態度で向き合ってくれた。
「...ところで、時間は大丈夫なのか。俺に代わってから大分経ったと思うんだが」
「え...ああ!!すっかり忘れてた!整備しないとー!!」
「暇が出来たらまた話しておくれ。あと、機体の検査や軽い復旧作業等こちらから遠隔操作でフォローしてやるから」
「え!それ本当なの、そんなことも出来るのっ」
「出来るさ、お前が思っているよりずっとハイテクなんだぞ。だからほら、慌てず行きなよ」
「うん!!」
　ナナキが自主的に席を外す所を見送ると、ようやくヴィジョンを消した。

「...ふぅ、えらいことになったな」
　黒縁アンダーリムの眼鏡を掛けると、凄まじい指捌きでキーを叩きプログラムを次々展開させた。
「まったく、皆むちゃくちゃだな。本部も『昔の僕』も」
　分析、解析諸々処理を済ます中、時折『不正』を示す文字列や警戒色が紛れる。
「ナナキの...あんな姿見たら不正だってなんだってして助けたくなっちゃうだろ...」
　先程まで話を交わしていた相手の姿を、実ははっきり見えていなかった。映し出された画像はこれ以上ないくらい鮮明で高画質。眼鏡を掛けてようやく輪郭が、真実の姿が判る程度の弱視だった。
「見えてなくて良かったかもな...どんな表情していたか判ったものじゃないね」
　にこやかに語り掛けてきた複製魔族の青年ナナキだが、あるはずの角と腕、下半身すら無く、代わりに禍々しい接続機器で磔のように固定されていた。眼球も、電子的な光る瞳が映った作り物の眼球だった。その体で動いているだけでも不思議なのに、戦闘に駆り出されているだけでなく諸々の作業も単独でやらされていたという信じ難い事実。
　この場を飛び出して助けに向かいたいくらいであった。だが、現状の立場を思えばそれは許されない。自分だけでなく、ナナキの身を思えばの話だ。
　しかし、熱くなる一方で焦ってはいなかった。
「本当、凄いね。『昔の僕』は...痒い所に手が届くモノばかり搭載済みじゃないか」
　そう、遠隔操作でもおよそ数人分の作業量が補えるであろうシステムが独自に組み込まれていたのだ。機体の核さえ機能していれば、大袈裟に言えば自己再生が可能なのである。
「本部にあったら切り捨てられただろうから、此処で開発したんだろうな」
　そんな物を付ける余裕があったら戦闘力を向上させろ、と会ったことはないが大凡発言は想像出来てしまうフォーダイトとかいう男。記録の中でしか知らない奴、判りやすいくらいの生粋の戦士、上層部にとって最高に扱いやすいであろう存在。自分と違って...
「あとは必要な時に起動すれば良しって段階に留めてあったし...手際良すぎだな。ああ、こうなる事を想定した上で構築していたとしたら...天才どころじゃないね。失うには惜しすぎる逸材だったねえ...」
　一部皮膚以下が露出した頭部を掻き毟る。
「本部が野良邪神に翻弄されているうちにやれることをやってやんなきゃ...って、ああ!」
　何気なく携帯子機から現在時刻を確認。予定よりも遥かに時間が超過していた。
「ち、遅刻だ!大遅刻だ...!!今度から車に制服積んでおこ...」
　一部機材を持ち出しながらその場を後にした。
　外に出るや否や携帯子機が振るえる。数秒刻み入った夥しい量の履歴。駆けながら応答した。
「はい聞こえてますよー!君もそんな声量出せたんだねえ鼓膜が破けちゃいそうよ!今全力でそっちに向かってるからさー!...え、会議の日だったっけ。緊急...そういう時はカンゴームは病欠してますって...あ、怒鳴らないでわかったから。でも遅れる旨は伝えておいてね...」



「むふ～ふふふ...」
　確かに、自分が手掛けていなかった...というよりは手の行き届かなかった一部範囲含めキャスカトの内部回路は的確に復旧されていた。モリオンのいう遠隔操作が作動したのだろう。
　ナナキは嬉しくて仕方がなかった。整備に掛かる時間が大幅改善されたことは勿論だが、何より穏和なオペレータことモリオンの存在である。荒くれ者だが居てくれただけでありがたかった...かもしれなかったフォーダイト、居ても邪魔居なくても逆に不安なトラブルメイカーのルース、両者が揃って消えてしまってからはというものの落ち着いていられなかったが、モリオンが全て解決してくれた。
「そうだ、アンテナピアスでいつでも通信応答出来る設定に出来たはずだぞ。この際だから試しにやってみよ」
　いそいそと端末をいじり始める。義肢体くんの手捌きは実に軽やかであった。設定が叶えば、キャスカトから離れていても即送受信が出来るはず。
　以前の待機状態の段階でやるべきなのでは、と思われるかもしれないがそこは冷静でいられなかったナナキの裁量不足。粗暴なオペレーターの声を一日中聞いていたら耳と頭がもたないため、普段からシャットアウトしていたのが仇となっただけにすぎない。
「...よし、これで良いはず。次はいつ会えるかな、戦場行く前に会いたいなあ」
　新たな相棒...いや、彼の言うことが確かならばコンビ再結成ではあるが、とにかく、待ち遠しかった。

　独りでに尾を動かし、巧みに自己修復をこなすキャスカトを見守りながら寝転がる...
「し、信じられない...キャスカトが、自分で自分を直しているよ...!あんなに器用に尻尾が動くだなんて...」
　素晴らしいくらいの安定感であった。
「遠隔操作のフォローとか、てっきりビリビリしか出来ないと思っていたのに。これは...」
　本部...いや、フォーダイトのことだから『ナナキが腑抜けになる』などと言って許可を出し渋ったのかもしれない。モリオンだから実行してくれた、モリオンだから助けてくれた。
「んふ...ふふふ...こんなに休めちゃっていいのかなあ。ありがとう、モリオン」
　これほど寝心地の良い環境は初めてかもしれない。味方がいるのを実感出来ることが、これほど気の休めになるとは思いもしなかった。
「毎回これなら...余裕が出来る...暇が出来たら何しようかな......探索...モリオンのことも気になる......うぅ～......」
　重くなる目蓋。やがて安らかな寝息を立てる。あれほど興奮していたのに数日徹夜した疲れが一気に押し寄せ、深い眠りへと誘ったようだ。

　見覚えのある青い肌の大きな手。以前夢で見たのと同じものだ。これも夢か、と思ったがその手はナナキ顔を優しく包むように触れてくれた。少々固いがその肌触り優しく、心地良かった。じんわりと温もりが伝わる。体に染み渡る癒しの温もり。
　そういえば、ルースが『ヒトはあらゆる感覚を脳に刻み込んでいるものだ』と言っていた。この手の感触も馴染みがあるのはそういうことなのかもしれない。

「モリ...おぉぉん!!」
　体全体に何か巻き付いたかと思えば、そのまま宙に放り投げられた。
「きゃ、きゃすかとぉぉぉぉ!!」
　尾を巧みに操るキャスカトが、ナナキをそのままコクピットに放り投げたのだ。
「あ...もうこんな時間だったの...」
　なんとも、大胆な目覚まし機能だ。
「ちょっと過剰かなあ、でもこれで遅刻せずに済むね。というか遅刻出来ない。...あ、でもちょっと待って。トイレ行きたい」
　放り投げられた衝撃で催してしまったので、コクピットから出ようと身を乗り出すが...尾の先で押し戻される。
「ちょ、ちょっと...!出たいんだってば!トイレ!!漏れる!!」
　だが席に着けと言わんばかりにキャスカトはナナキを押して退かない。
「も、も、もぉぉぉぉ!!!!」
　モリオンと叫びたかったのか、漏れると言いたかったのか、自分でも判らなくなっていた。

◇◆名称

『次世代開発公社』（『Next Generation Development Corporation』 略称『N.G.D.Corp』）


◇◆方針

　制御！　制御！　制御！　制御！　制御！

　ユニオン購入は役員（プレイヤー）による簡潔な協議結果に基づいて行われます。
　途中参加・途中離脱はハイドラライダー個人の自由意思が尊重されます。（※１）

（※１）当領域作戦責任者『Mew』または担当の後方管理官に事前に通知する事。


◇◆推奨

【能力面：戦闘】
　飛行・索敵・機動力を求めるハイドラライダー様

【精神面：ロール】
　人材開発・兵器開発に熱意のある方
　スポンサーをお探しのハイドラライダー様


◇◆概要

　我々、次世代開発公社『N.G.D.Corp』はハイドラライダーの皆様を支援します。
　当ユニオンは優秀な人材・機材の開発を目的とした企業連合により運営される団体です。

　兼ねてより第７西暦世界にて軍需産業を担っていた七重重工が母体となり、
　当連合は多様な企業・団体を吸収合併する形で成長して参りました。
　この度、新天地としてこの残響領域での『霧』の調査、
　および『霧』を利用した新製品の開発などを重点的に行っていきます。

　『人類の百年後を創造する。』
　それが、我々次世代開発公社の運営目的です。
　理想の実現のため、残響領域、第７西暦世界内外を問わず強固な地盤作りを行っていきます。


◇◆採用（この辺から下はエッセンスです）

【スポンサー採用／特別スカウト採用枠】
　一定の経歴・実力をお持ちのハイドラライダー様に当連合から多様な支援を行います。

【戦闘機竜操縦士／一般採用枠】
　当連合の窓口へ履歴書を提出してください。後日、戦闘試験を行います。
　面接等はございません。事前の意思確認と、試験用機体の選定の為の連絡は行います。
　能力次第で、スポンサー採用と同様の待遇も検討させていただきます。

【戦闘機竜操縦士／新卒採用枠】
　当社の窓口へ履歴書を提出してください。
　前提として、当連合指定の操縦士育成プログラム（別紙参照）を修了している必要があります。

【薬物テスター／アルバイト】
　当社の窓口へ履歴書を提出してください。健康状態・精神状態を検査の後、業務に移行します。


◇◆事業内容抜粋

【兵器・人材開発】
　マシンとそれを運用する人員の開発を行っております。
　当連合は特に飛行型のマシンに対する強いノウハウを持っています。

【兵器・人材派遣】
　製造したマシンおよび育成した人材を様々な企業や団体へと派遣しております。

【生活用品開発】
　日用品や家電といった様々な分野でも、我々企業連合は活躍しております。

【広報宣伝】
　様々な世界の多様な媒体に対するコマーシャルが可能です。
　当連合は軍需産業以外でも七重財閥のノウハウを生かし事業を拡大しています。

【児童保護】
　当連合では戦災孤児の保護を行っております。
　人類の未来を担う若い命を大切にするべく、その芽を保護し、より強く育て上げます。


◇◆沿革

　ADWT 2017/03/19 20:45　『ハイドラライダー量産計画』こと如月との契約を満了いたしました。
　ADWT 2017/03/06 17:18　『深水 景』への支援を確約しました。
　ADWT 2017/03/05 21:27　他社経由にてライダー『花能 霞』との契約を開始。
　ADWT 2017/03/04 06:28　非科学的科学研究部にてライダー『漆生』への出資開始。
　ADWT 2017/03/04 01:56　ライダー『四条 鼎』との契約を開始。
　ADWT 2017/03/04 01:53　ライダー『本木大人』への依頼パイプラインを構築。
　ADWT 2017/03/04 01:52　『ウォーハイドラ専用戦闘AI』のデータ収集を開始。
　ADWT 2017/03/04 01:49　『ADA』へのスポンサー契約を締結。
　ADWT 2017/03/04 00:45　『ハイドラライダー量産計画』への出資が決定いたしました。
　ADWT 2017/02/27 15:31　Mewとラキ＝シャノアール両名を黒猫飛行隊として僚機編成、配属。
　ADWT 2017/02/23 03:23　『ラキ＝シャノアール』へのスポンサー契約を締結。
　ADWT 2017/02/09 15:00　特別開発プログラム『Mew』の移譲手続き完了。搬出終了。
　ADWT 2017/02/04 18:30　残響領域での活動に着手。アルゴス基地の本格稼働開始。


◇◆参加団体抜粋

　七重財閥、七重重工（有）、卯乃井重工（株）、リナトリア・インダストリー、Artificial Attractor Laboratory、非科学的科学研究部


◇◆オフィス案内

　アルゴス基地など、多様な整備・補給が受けられる基地をご用意しております。
　社食の提供も行っている他、自由にご利用いただける宿泊施設も完備しております。
　集合場所としてよく使われる食堂では、ボードゲームなどをする光景もよく見られます。

　シャワー、共同の温浴施設もございます。整備後や運動の後もばっちりすっきり。
　最近はフルーツ牛乳と、売店にて販売中のヘカトウム温泉まんじゅうが大人気です。

　基地内には商業施設も完備、衣類から娯楽、機械部品までなんでも揃います。


◇◆社員の声

　「待遇も良くて安心です。保険や家族への補助手当も嬉しいです。」32歳／男性操縦士

　「やっぱり、万全な環境は心強い。悪くない居場所だ。」55歳／男性操縦士

　「保育施設もあって安心、夫婦揃って大活躍だよ。旦那もアタシも満足さ！」37歳／女性操縦士

　「私も数か月滞在したが、外の霧以外は最高だな！　おっと次の仕事だ。サラダバー！」年齢不詳／女性研究者

　「成果主義なのは嬉しい。努力する価値があるのは良い事だ。」22歳／男性管理職　

50：159：42：18：45：204：404：330：450：525