ENo.0338　ドランカー

【5：BUDDY-2】

そして、目が覚めた。
久しぶりに見てしまった夢に、気分は最悪だ。

――結局、あの後どうなったのか良く分かっていない。
気づけば全てを失って戦場に転がっていた。
そんな状態の自分を見つけたのが、不幸にもお人好しだった。だからこうして生きている。

《おはようございます》

抑揚のない女の声が響く。

《気分 は 如何 で しょうか》

まるで単語を組み合わせたような――実際そうなのだろうが――AIの言葉がぼやけた意識の中で響く。

「最悪だ、酔いが覚めるまではそっとしておいて欲しいね」

《謝罪 しかし 緊急 の 要件 です》

「――ああ？」

《動力機関 の 取付 を 依頼 します》

なんだ、と男――ドランカーは息を吐いた。つまらない事で起こしてくれる。

「言ったはずだ、動きはする。何の問題もない」

《否定 エラーメッセージ 多数 危険 です》

「ならそのエラーメッセージが間違ってんだ。
大体、俺のハイドラだ、文句言うんじゃない」

《否定 今 は 私 の ボディ です》

「だったら、ポンコツには丁度いいだろ」

《否定》


――やれやれと、男は酒瓶を呷る。
なんで、こうも思い通りにならないのか。バディってのは互いに利になる関係のはずだ。

半端に速い程度しかないのならば多少のエラーなんか無視した方が安全だ。

そして――不本意ながら――バディだというなら、こいつはもう少し静かな方が俺の利になる。

そして――あいつにとって、あの時、俺が犠牲になった方が利になったはずだ。


「諦めろ、お前が白状した強制後退プログラムって奴は外した。
戦場では俺が絶対的に主導権を持つ。お前は、俺の言いなりになるしかないんだ、元からそのはずなんだがな」

黙り込んだAI、MARYを尻目に鼻を鳴らし、男は再度酒瓶を呷った。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。