ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ１５：激戦は金曜日』

セロに頼んで、『トリグラフ』のデータ保存領域に、エルシスもセロも閲覧出来ない場所を作ってもらった。
パスは私しか知らない。二人がその気になれば、半日とかからずに解析出来るだろうが、あの二人が興味本位でそんな事をしないのは、よくわかっている。
だから、心置きなく私の思うところを記録しておこう。

二回目の要塞攻略戦が迫っている。
また大勢死人が出るだろう。恐らく、前回の比ではあるまい。
しかし、正直なところ、前回の攻略戦で、こちら側にどれだけの被害が出たのが、私は知らない。
……いや、知らないのではない。「覚えていない」のだ。
当時の戦況データは『トリグラフ』にもダウンロードされている。そこからエルシスが出した統計を閲覧した記憶もある。
だが、「記憶がある」という記憶が残っているだけで、その内容が、すっぽりと抜け落ちているのだ。

元の世界では、共に戦場を駆ける仲間に必要以上の情を移さない為に、「相手に興味を持つ事」を敢えて切り捨てていた。
感情移入してしまえば、誰かが撃墜された時に動揺する。動揺は、操縦棺を握る手を震わせる。判断力を鈍らせる。自分も死神に足首をつかまれて、死の世界へ引きずり込まれる。だから、切り捨てねばならなかった。
この世界に来てからは、それを忘れていた。幾人かと近づいて、言葉を交わす事も試してみた。
ニーユ＝ニヒト・アルプトラ。
スー。
ミオ・アマガセ。
コルヴス・コラクス。
パロット。
……大丈夫。覚えている。人間と呼んで良いのかどうか怪しい者もいるが。
彼らと交わした言葉は覚えている。先日のミリアサービスでの肉焼きパーティーも、戦場の殺伐とした空気を忘れて楽しむ事が出来た。

だが、顔も知らないとはいえ、死亡者を含む戦場データを、こんなにも短時間で忘れる事があっただろうか。記憶力には自信があったのだが。

おかしい。何かがおかしい。

違和感を覚えながらも、私は戦うしか無い。
自分が死亡者リストに載らない為に、戦場を漂う残像と化さない為に、戦い続けるしか無いのだ。
その為にも、明日はまたエルシスとセロにアセンブル案を組んでもらおう。
要塞戦では巨大なウォーハイドラが待ち構えているという。仲間を守る為に、私は敵をおびき寄せる壁になる。

大丈夫。
ユリア・クールハートに、不可能は無い。


「……こんなものかな」
「はは、我ながら、弱腰な事を書いているな。情けない」

CTRL+Sを押下してデータを保存、システムを落として、操縦棺を出る。



……このデータに、閲覧の為のパスワードが打ち込まれる事は無かった……。

To be continued...

Reinclaft-Millia Service

数年前にできた、残像領域の片隅の整備屋。
相場よりほんの少し高い値段で、ウォーハイドラのみならずライダーも整備する。
早い話が、機体のメンテをしに来るついでに、店主が常々作りすぎる飯のおこぼれにありつける整備屋である。
飯だけの利用も歓迎だが、この店にはメニューはない。店主が作りすぎたその日の飯が出されるだけである。

！店および店主（ENo.4）の既知可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/milliapede/union.html