ENo.0141　鼠花火

バイオスフェアに鎮座しているという、バイオ兵器を生み出すハイドラとやら。培養器から生命体をぽこぽこ生み出しているようなのは味方でも時折見かけるが、きっと数も規模もその比じゃないんだろう。どんなヤツだろうか？

『ちょっと興味があるね』とネコが通信をよこしてきた。あいつはいつも謎の機械をいじくり回しているから、こういうのには興味が無いのかと思っていた。これからはバイオ兵器にも手を出すことにしたのか？そう聞いてみると、違う答えが返ってきた。
『あれだけ大量のバイオ兵器を生み出すなんて、必要なエネルギー量は尋常じゃないよ？あのエネルギー源を手に入れることができれば、もっと楽しいことができそうじゃないか』
「…まあ、確かにな」
あいつの作る装置も、無駄に高性能になってきている。ハイドラはとにかくエネルギーを喰う。俺のハイドラに2つ積み込んだミストエンジンは、ここ最近霧を吹き出しながら甲高い異音をあげるようになった。実はいつ止まるんじゃないか？とひやひやしている。

『というわけでさ、もしバイオコクーンちゃんに接近する機会があったら、よーく観察してきてよ。できたら写真とか、それか…あー、破片とか持って帰ってくれると、ボクは嬉しいな』
「取りに行けよ、自分で」
『ムリムリ。ボクはひ弱だからさ』
嘘をつけ、どこがひ弱なもんか。
『急に戦場なんかに放り出されたらそれどこじゃないね。すぐ死んじゃうって！だからキミに「お願い」してるんじゃないか』
「…」
『この広い残像領域で、ボクのハイドラ乗りになったのも何かの縁！キミは少しずつ経験を積んで、戦果も金も、まあ人並みには稼げるようになった。じゃあ次にやることは？ちょっと視点を変えてみるのもどうかな？例えば、自分のハイドラについて知識を深めてみるのは？ここらにある要塞ってやつは、失われた技術の宝庫さ。そこに行けるなんて、何て幸運なんだろう！キミはそこで生き延びて、そして新しい力を得る。きっとキミのためになるって！…ところで、何の話だっけ』
俺は急に腹が立ってきて、通信を切った。よく口の回るやつだ。

生き残った者達へ。
これから往く者達へ。
私たちは歌おう、今日この日があることを。
私たちは祝おう、今日この身があることを。

全ての生きとし生けるもの達へ。
健やかに、でもなく。末永く、でもなく。
ただただ只管満足な生と、満足な死が迎えられるように。

乾杯。