ENo.0295　リゼット・フォーレ

ひとは死ぬ。ときに呆気なく、誰に知られることもなく。
あたしが叩き切った機体の中にも、ひとはいただろう。
死体が乗っている、なんて不気味なこともあったけれども。

殺したり殺されたりするのがライダーだ。
ライセンスを手にしてここに来たとき、あたしの命はぐんと軽くなった。

一山いくらで替えのきく、ハイドラのためのパーツのひとつ。
そう、パーツなのだと思う。
総体としてのハイドラを動かすために必要なもの。
毎週のカタログから選ぶよりは長持ちする、その代わりに金を喰うパーツ。

割り切った、と言い切れるほど、倫理感が弱いわけじゃない。たぶん。
参加する必要のない戦争に首を突っ込んで、戦場に立つ。
それはいわゆる “罪深い” 行為なのかもしれない。
そしてママはたぶん、その意味を知っていたと思う。あの夜空のような瞳は。

命には軽重がある。平等だなんてお題目は信じちゃいない。
あたしたち流れ者の歌い手の命なんか、吹けば飛ぶようなもんだ。

ただ、憧れには、命を賭ける価値があると信じたのは確かだった。

ぎらぎらと輝く命の在り方。
あたしはそうやって生きたい。吹き消される瞬間まで。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

マスターと紅色の髪の少女が話し込んでいる。