ENo.0261　Solitus

様々な国を渡り歩いて逃げ回ってきたカナエには、各地に知り合いがいる。
その知り合いのほとんどは、まあ、簡単に言ってしまえばあまりよろしくない知り合いがほとんどだ。
カナエと同じように盗みを生業としていたり、人を殺した経験がある者だったり――アンダーグラウンドな世界に属する者たちばかりだ。

そして今。
カナエがマギカマキナにいた頃から使っている端末で会話をしている相手も、そういった“アンダーグラウンドな世界に属する者”だ。

『……ふぅん、バイオコクーンってカナエたちが乗ってるのと同じウォーハイドラだったんだ……』
「らしいよ。俺にはあれがソリトゥスたちと同じウォーハイドラには見えないけどね」

いつもどおり出撃を終えた夜。
隣で眠っているソーナを起こさないように気をつけながら、カナエはつい最近聞いたばかりのボイスメールから得た情報を思い返していた。
目の前に置かれている端末の画面は暗く、映像でのやり取りは遮断されていることがわかる。
けれど通話の相手は連絡を取っていない間も元気にやっていたらしく、聞き慣れた穏やかな声がカナエの鼓膜を刺激した。

『……でも、ウォーハイドラでは説明がつかない部分もあるんだよね？』
「会長はそういってたね。あんたはどう思う？」
『うーん……私たちはカナエみたいに……えっと、ハイドラライダーだっけ。それでもないし、機械にもあまり詳しくないけれど……』

通話の相手はそこで一度言葉を止め、少しだけ時間を置いてから再び口を開く。

『……ウォーハイドラを改造した何か、っていう可能性はあるんじゃないかなって。ウォーハイドラをベースにしたのなら、ウォーハイドラと同じ反応をしつつ、違う機能も搭載することができる……んじゃないかなって……』
「……あー、なるほどねぇ。さすが、撫子さんは頭が回るねぇ。俺、あんたのそういうところ、素直に尊敬するよ」
『あはは……ただの予想、だけどね？』

素直な言葉に、相手は少しだけ困ったように笑う。
撫子は名前ではなくて、ただの呼び名だ――彼女の髪の色からカナエがつけた、ただの呼び名。
それでも相手は気に入ってくれているようで、撫子と呼べばどこか嬉しげに言葉を返してくれるが。

「また詳しいことわかったら相談するかも。そのときは快く相談に乗ってよー？」
『うん、わかった。……あ、でも、妹の日だったときは、ごめんね？』
「そのときは俺も素直に諦めるから安心して」
『……それなら、よかった。……あ、そうだ、……ソーナちゃんの調子は、どう？』

なんだかんだいってカナエにとって大切な相方になりつつあるソーナの近況を尋ねる声に、小さく溜息をついてから密かに頭を抱えていることをそっと言葉にする。
――数秒の空白のあと、相手の笑い声がカナエの鼓膜を震わせた。