ENo.0301　花火や　紅扇

四日干してやっと乾いたタンクトップをもぎって、
窓の外の霧は薄い。
流体栄養食を喉に押し込む。
水道水。
煙草。

ガレージを建て直すとき、
人感センサーとか、空気清浄とか、あれこれ勧められて、
私は頑なになって断った。

真新しいライトの目を刺す白さに囲まれて、
私のウォーハイドラは一段とみすぼらしい。
丸めた脚の下にわだかまった影と、白い光とに挟まれて、
まるでぼんやりした灰色の塊。
“効果的”なライトの設置のおかげで、
戦闘のたびに増える補修跡の微妙な凹凸は掻き消され、
なんの傷みも歴史も失った、
ガード下の落書きみたいになった。

タラップからハッチ、
操縦棺。
シートが日に日に湿っぽくなってる。
エンジン-オン、
地獄みてえな振動、
大絶叫、
そのわりに3ミリと動かねえ。
それで霧、霧、霧、霧ばっか吹きまくって、
このせいで何回、砲を外したことか。

広域ナビ？
あるか、そんなもん。
このあいだ印刷した紙の地図を広げた。
赤いペンで丸をつけてある。
“バイオスフェア”

桿を自分の脚でグウッと押し込むと、
熟睡から寝起きくらいの速さでようやく、
折り畳まれた脚が一本一本伸び始める。
造られた時はどうだったんだ？
お前にも最新式だった時があったんだろ？
どれだけ戦ってきた？
替えようのない骨格は、どれくらい傷んでる？

命の残り僅かなものに、
一つ残り火が燃え移れば、
金属と金属の擦れ合いから3000度の白熱が生まれるように、
きっとこの世に五秒しか咲かないような、
それから後はぺんぺん草も生えなくなるような、
どうしようもないくらい綺麗な焔があがるに違いなかった。

だからあの中古屋で、お前を選んだんだよ。カルキノス。

外れに格安で借りたガレージ
中心部から離れたがらんどうの野原にぽつねんと建っている。
利便性は極悪。