ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「その…………Erica、さん」
「ん」
「……や、やっぱりエリカさんでもいいですか？」
「別に　猫係の呼びやすいように呼べばいいんじゃね？」
「でも……」

エリカは抱えた猫の前足を掴み　肉球を巻き毛の女の頬に押し当てる

「ねこぱーんち」
「ふみゃッ」
「あのさあ　そういうのガチ萎えなんで？　変に態度変えんじゃねーっつの」

ねこぱんちされた所に手を当ててちょっと嬉しそうにする巻き毛の女
掴まれた前足を振りほどこうと暴れる猫
エリカが手を離すと猫はにゅるりと滑り出るように膝から降りた

「……技師さんが言ってた『ヒースハイデを完成させる』って、できると思いますか」
「……なんでソレ俺に聞く訳？」
「エリカさんの意見が知りたくて」
「……あー　いけんじゃね　知らんけど　あいつさりげ有能だし」

彼は技師を信頼している　巻き毛の女は心からそう感じ取った
それは彼女にとって喜ばしいと同時に不安でもあった



出撃のサイレンが鳴る　それと同時に端末への通信
その相手は……巻き毛の女の上司である男
エリカは表情を変えないまま怪訝そうに呟く

「は？　よりによってこのタイミングに……
　……とりま俺出てくっから　猫係はオッサンの相手しといてもらう感じで」
「はーいっ」

操縦棺へ戻っていくエリカ　巻き毛の女は端末を手に取る
耳に届くのは男の声　彼は端末の向こうにいる人物が誰か確認する事もなく巻き毛の女の名前を呼んだ


「そこにエリカは居るか？」
「えっと、今出撃していきましたけど……」
「技師も留守か」
「はい」
「なら都合がいい」

あいつが居ると話をはぐらかされかねないからな　男は呆れたように言う
一体何の要件なのか　巻き毛の女が聞く前に男はある問を向けた
問というにはあまりにも確信の色を含ませた声で


「あいつはエリカの存在を《知っていた》な？」


「……お、恐らく。はい」


筆記用具を用意する音が聞こえた　どうやら詳しく話せという事らしい
巻き毛の女は少し逡巡した後……
そもそもエリカに関する情報は報告義務がある事　二人にも特に口止めされていない事を思い出し
頭の中で整理しながら《エリカが彼女と技師に伝えた事》について話しはじめた

*にゃー*