ENo.0023　アンナ・T・パラボ

保険を切って戦場に出てみた。
私は押しも押されぬ大エースだった。
あのギルデンロウも、名だたるエースライダーたちも
私の戦果にはかなわなかった。
それでも、「保険を切っている」という事実に関して
何か特別な感情が湧いたかというと、そんなことはなかった。
事実として収入が増えたこと、そして――


『アンナ！？活動ログ受信したんだけど保険はどうしたの！！』

「あー、マスター。それは私が切った。故あって」

『故って……どうしてそういう勝手なことを』

「…ここのイカれハイドラライダーたちの気持ちを理解するには、実践あるのみだと思って」

『はぁー……アンナ、いい？何度も言ってるけれど、
　あなたは私の叡智の結晶なのよ？それを軽率に……』

「それなら、格納庫になんて寝かせずにもっと使っても良かったと思うなー」

『まぁ…それは……』

「大丈夫、無茶をするのはあれっきりだから。またログは送るよーバイバーイ」

『ちょっ…』


という具合で、マスターに小言を受けたぐらいだった。
月並みな推測をするならばレウィシアはどうせ装甲に身を固めて死なないのだから
保険は不要で、
ミスター死に急ぎにとって生にしがみつく必要はないのだから、
保険は不要なのだろう。

本人に聞くのが一番早いのかもしれないが、
それはデリカシーに欠ける行為であり、
それはなんとなくコミュニケーションにおいての敗退行為であり、
何よりも余計な地雷を踏むかもしれなかった。
それに私は保険を切る心理とか、気持ちを確かめてみたかっただけであって、
やっぱり個々の過去やら生き様には興味はあまりわかなかった。

生き残った者達へ。
これから往く者達へ。
私たちは歌おう、今日この日があることを。
私たちは祝おう、今日この身があることを。

全ての生きとし生けるもの達へ。
健やかに、でもなく。末永く、でもなく。
ただただ只管満足な生と、満足な死が迎えられるように。

乾杯。