ENo.0323　第306特殊試験部隊

ヤツは確かにいる。
霧の中に……いるんだ。


「だからこの指令っていうか依頼受けたの？」

だるそうにカフェのテーブルへ上半身を預けるウェンディは乗り気ではない。
カレンもそうだ。ワドーも、ゴトーですらも最近の私に対して落ち着くように
冷静になれ、だのとめに掛かる。
今回の件もそうだった。
中佐が最後のネッサ・ガラヴァンと戦った場所に赴き
そこで何があったか、現在どうなっているか調査せよとのこと。
そこから来たワドーやゴトーを先導させて。


「だいたいさ、あんなのがそもそも人が乗るハイドラかも怪しいし
　仮にそうだったとしてどうなるのさ。」

仮に、ネッサ・ガラヴァンが今も活動を続けており
アフラムの下を離れてウォーハイドラ乗りの活動をしていたらどうなるのだろうか
という話。何度も考えてきた。企業としては、規約に対する違反行為になるのだろう。
故にその疑いが掛かっている今、元開発主任であった市長から調査を依頼されるのも不思議ではない。
だがウェンディが聞いているのはそういうことではない。

「私達にとって、因縁がなかったとは決していえない相手だけれど
　その……それをどうこうしろ、とは中佐は教えてはいなかったはずです。」

カレンが呟くように、補うように続いた。306は中佐が来る前から存在した部隊だが
我々を、306を構成しているほぼ全てのものは中佐が教えてくれたものだ。
部隊運用、部隊での戦術、部隊内での指揮系統、部外との関係性、そして……
ウォーハイドラ乗りではなく、軍人、兵士としての有り方。
そしてそのあり方として、あってはならないと呼ばれた存在に
私は今、そう同じようにあろうとしてる。

「中佐は別にそんなこと望んでいないし。確認しようはないけど……
　まぁなんかやさしいーって人じゃなかったけど。部隊から出た後で私らに黙って
　ネッサ・ガラヴァンと一騎打ちで戦ったのも、私らにそうさせないためじゃないの。
　市長の話からすると最初からそうするつもりだったようだけど、何するかぐらい言うことも出来たじゃない」

そう捉えることもできる。そう考えることもできる。
我々が……随伴さえいれば、残像領域での戦いでの中のように……我々がいれば
中佐が行方不明になるようなこともなかった。
そう思わざる負えない。思ってしまう。考えてしまう。
せめて私だけでも一緒にいれば……

「中佐が私達に望んだのは部隊の存続です。それについてももう達成してますし
　今後も出来るとは思っています。中佐が306を独立した部隊として構成しなおしてくれたので
　我々は以前のようなこともなく、確固たる存在として運営、運用がされています。
　今回の調査のもそうですし……現在エルコ市に駐留しているのも、そうです」

中佐のつながりで今ここに駐留しているのは間違いないが現在も滞りなく
ウォーハイドラを運用する企業契約の半独立部隊として存在している。
中佐が私に望んだのは実った成果を後にも続けていくこと。
軍人として兵士としてその任を全うすること。

だがそれが頭ではわかっていても、この憤りが抑えられない。
ニコの死、中佐が行方不明になったこと。全てあのネッサ・ガラヴァンの手で行われている。
あの時私があの女を警戒していれば。あの時私が中佐と共に出撃していたら……
あの女は奪っていった。私の身近な者を……あの女が存在する限り
また私の近いしい者が奪われる。
ヤツがまだ生きているなら……必ずまたやってくるはずだ。
だからこそ生きているなら……

「ニコについても、中佐言ってたでしょ。
　残念なことになったが軍人として兵士としてそれはいつか来ることだったって。
　中佐についても……そりゃ自分のことだし言わずもがななんでしょ。
　あの人こそ軍人だったし。ならどうなっても今のメイみたいなあだ討ちは望んじゃいないよ。
　それは私達よりメイが一番わかっているじゃん。」

そうだ。今私がしようとしていることは私以外誰も望んでいない。
いなくなった人間の意志など誰がわかる、と言うが親しければ……その人が何を考えて生きていた人間か
いるかわかるならば容易く想像はつく。

ウェンディも、カレンも、部隊の人間も……
まだ出会って短いけれどもゴトーも、ワドーですらもするべきではないと言う。

私の中にまだいるニコや……中佐もまた同じく
そのようなことを教えたつもりもないと。くだらないことであると。
部隊運用を預かる士官が私怨で動くとは何事かと。
一軍人が個人の考えを持てば軍は機能しない。そんなこともわからないのかと。
軍務において徹底されたその有り方を、教えられた日を思い出す。
ニコが、あの女に殺された日。


悔しいからではなく、恨みが強くなったからでもない。
この憤りと、悲しみとどう向き合えばいいのか。
中佐は教えてくれなかった。

いつのまにか手のコーヒーマグカップを砕いていた私の肩を抱き
ウェンディは慰めてくれた。
一応仕事だから確認にはいくけど、それでこの件は終わりにしようと。
きっと心の整理はつくと、ただ俯いて涙を流すしかできない私の
気が済むまで二人は傍にいてくれた……

我々アフラムインダシトリィは
企業都市キルガールを拠点にする企業ユニオンです。
歴史は古く自由都市時代からの重工業産業の組合を基としており
現在は企業年として軍需重工業を中心に各種ウォーハイドラの武装、また装甲兵器の生産を行っております。
当領域等には現地での需要調査、およびウォーハイドラパーツの研究開発試験
並びに販売を目的として今回は参入させていただいております。
どうぞよろしく。

■今回のお知らせ。　[第１９週]
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
ハイドラ大隊の遠征終了が発表されましたが当社は引き続き
ウォーハイドラの研究と新造パーツを……

また現在当社の製品が……という噂が……事実確認を……
未確認の情報には……尚……新しい情報に対して報酬を…
虚偽情報には法的な措置を徹底し……