ENo.0206　モニカ・フランクリン

「キリトさん、キリトさんキリトさんっ！」

　タブレットをぐいと突き上げて目の前の私よりもよっぽど身長の高い人に見せつけると、見せられた側の人は、なんだ、って少し眉を上げてそれを取り上げて覗き込み。
　ちょっと遅れて、多分表示されているものを認めたからで、今度は目を丸くしてこっちを見下ろしてきたので、私はにぱーって笑った。誇らしげに。

「攻撃戦果三位！　の、総合戦果四位！　です！」

　ぶいって指を立てて、いや二位の文字はないんだけどこれはびくとりーってやつなので。
　誇らしげにっていうか実際誇らしいし、だってキリトさんが攻撃を捨てて私の援護に専念するって聞いたとき、私はまず、大丈夫なのか、って思ったし、だってキリトさんが捨てたぶんの攻撃を私がカバーしなきゃその意味はないわけで、カバーというよりかはこう、全体の効率というか、とにかくキリトさんが攻撃を捨てただけの働きをしなきゃいけないということだったわけで。
　とにかくそうだと私は思ってたから、それに応えなきゃって思ってたから、それが今回こうして数字をどばーんと出せたということは少なからず応えられたということで、とても嬉しい。もちろん偶然とか運とか戦場全体の状況とか、そういう色んな要素が噛み合っての今回一回きりかもしれないけど、でもそれだって今までよりずっといい結果だ。
　今すぐ飛び出したいような、雨の中でだって鼻歌交じりにスキップできるような、誰かと一緒にケーキを食べるときみたいな、機体のメンテナンスが一発でうまく行ったときのような、敵を確かに一撃で撃ち抜いたと確信できたときのような。
　浮かれ気分なぞこれこの通り。

「……さすがだな」

　キリトさんは、少しだけ、笑ってるように見えた。少しだけ？　少しだけは言い過ぎかもしれない。もっと、キリトさんにしては、ずいぶん。
　でも喜んでくれるのは嬉しいというか、だってこれはキリトさんのお陰でもあり。こうして盤面に表示されて目立ってるのは私の名前だけど、全部なんてことはないけど、キリトさんの尽力あってで、教えてもらったことだってたくさんあるし、私が生きてるのだって、前に出られるのだって、背中を預けられる相手がいるからなわけで。

「さすが。……です？」

　だから私だけの名前がここに出てるのはちょっとだけ不本意なのかもしれないような気もするんだけど。
　僚機の名前も表示してもらえないだろうかなんて。別にこういう、ランクイン？　みたいなので、報酬に差が出ることはないにせよ、私だけ、私一人の力じゃないんだし。
　だって私が思いついたことじゃない。キリトさんが、私にもっと攻撃に専念しろって言ってくれて、そうできるようにしてくれて、背中を押してくれて、だから私は思い切れたからこうして結果を出せたのだ。
　だから。だから。

「言っただろう、『慣れ』だって」

　その通り、その言葉の通り、慣れもあるのかもしれないけど。
　それは、あなたに背中を任せることへの慣れだ。
　もっともっと前に出ていいと。力強く激しく戦場を駆けて、身の回りを顧みずただ敵を倒すことに専念できるようになったのは。

　信頼を積み重ねただからだとは、うまく言葉にできなかったけれど。