ENo.0268　ゴートリンデン

男の顔をさんざん舐めた黒い犬は。
明け方、来た時と同じようにするりと病室を出ていった。
いつの間にか、彼の手には銀色のカードが握られていた。
それを知るのはだいぶ後だったが…。

その日を境に。
再起不能だったはずの体はおもしろいくらいに回復していった。
医者も看護婦も半ば怯えたように男をみる。それくらいの奇跡だった。

犬が来て3年後、男は退院した。
何枚かの機密書類に判を押し、のち幾ばくかの金が支給される。

この国で男はもう死んだ扱いになっており、
書類は主にその手続きだった。
名前の変更、守秘義務、政府からの住居と職業の斡旋があることを知る。

そうして病院を出て、７年はぼんやりと暮らした。
身体は回復したが心はどこかへ行ったままだった。
祖国のために戦って報われなかったことや、もう誰にも会えないこと、あの日の死への恐れ。
それらは一度も彼の心によぎらなかった。
指一本動かせない時あんなに甦っていた記憶も遠い。

もう死んだのだ。何も考える必要はなかった。

どこからか迷い込んできた雑種の犬。

遊んでほしそうにこちらをじっと見つめる犬。

筋トレをしていると腹に乗ってくる犬。

くんくん言いながら餌をねだる犬。

じゃれついてきては困らせる犬。



がいる体で。

常に見えない何かと格闘する人生。そこに犬が居てもよい。

決まりは特になし。
各自好きなようにエア犬。
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格闘5：機動力+3％

（出入り自由。申請お気軽に。