ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

エリカは技師の持ってきた一冊の本を広げながら絵を描いていた
今回は自画像のようだ　キャンバスの中のエリカは見たことのない花束を抱えている
どうやらこの花は本の挿絵にあるものを参考に描いているらしい
巻き毛の女は本を横から覗き込む

「何ですかこれ？」
「植物図鑑」

巻き毛の女は本を裏返して表紙を確認する
……読めない

「ってあいつが言ってただけなんで　俺にも正直さっぱりわかんねーの
　まあ挿絵が多いですし？　こうやって見て描くなら問題無い感じ？」

エリカは自身の機体を持ち込んでいじっている技師を顎で示しながら言った


「あー　あれね　親友の形見」

技師を訪ねに行った巻き毛の女は軽い口調で想定以上の発言をされ思わず真顔になった

「ちなみにEricaが使ってる画材もだけど」
さらに真顔になった

「画家やってた親友が居てね　そいつが持ってた本で、故郷の文字らしい」
工具を置いて立ち上がる技師　エリカの座っている方へと歩いていく
巻き毛の女はその後を追いかけた


「そう、この花」

技師は本の挿絵の一つを指し示した　細長く白い花が密集している絵
その花は丁度エリカの目の前のキャンバスに咲いていた

「エリカっていうんだ。これだけは読める」

あいつに教わったからね　そう言いながら挿絵の横に添えられた文を指でなぞる
短く太い線で書かれた文字　恐らくそれが「エリカ」なのだろう
絵筆を持ったエリカは技師の指先をじっと見つめていた

「知らなかった？」

白い髪の青年は無言で頷く　挿絵の白い花は儚げに俯いていて
……「似ている」　巻き毛の女はすとんと落ちるように得心がいった

「荒野に咲く白い花。エリカ。俺が聞いたのはそれだけ」
「……荒野に、ですか」
「巻き毛ちゃんは見たことある？」
「いえ……」
「俺も無いんだ　ずっと西に行けば、もしかしたら咲いてるのかもしれないけどなあ」


「……いつか、探しに行きたいですね。エリカさん」

ぱちくりと瞬きをする　薄紅の瞳が巻き毛の女の姿を映す

「……ん。そのうち時間ができて、オッサンに許可取ったらで」

ゆーてそうそう無理っしょ　などとこぼしながら彼は再び絵筆を動かし始める
キャンバスの中に咲いた「エリカ」と「エリカ」はなぜだか風を受けて揺れているような……
そんな錯覚を起こさせて　巻き毛の女はしばらく絵に魅入っていた

*にゃー*