ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「エリカさんが人体スープに！！！！！」

巻き毛の女は以前ほどではないが取り乱していた

「まあまあ落ち着きなって。そっちで猫でも撫でてなよ」
「はい……」

ヒースハイデの操縦棺はかなり損傷し液漏れしていた
溶液自体は新たに追加すれば済むが　元々の中身がかなりの量流れ出た状態でも身体を修復できるのだろうか
技師は操縦棺を修理するためにエリカの身体を一旦水槽などに移し替えようと考える
操縦棺を開ける　中身を覗き込むがそこにはかさの減った透明な液体以外は何も入っていなかった
白いもやの欠片すら見当たらない

「煮込まれすぎて具が無くなってんね」
「聞きたくないです！！！」

巻き毛の女は耳を塞いで縮こまった

技師は目を凝らして操縦棺の中を見つめる
……ゆっくりと渦のように液体が流れているように見える
これがエリカの身体を構成するための動きなら　恐らくこの状態からでも復活は可能なのだろう
用意した水槽に中身を移し替えて蓋をしておく
巻き毛の女は水槽の側に陣取りそこから離れようとしなかった


ヒースハイデをおおよそ動かせる程度に修理を終えた技師は水槽をちらりと確認する
……拳程度の大きさの歪な白い塊が浮いている

「Erica」

呼びかけると白い塊は微妙に上下に動いた　ように見えた

「あは。ちゃんと聞こえるんだね」

技師はそれがエリカからの応答であると確信していた
塊はそのなめらかな白さ以外にエリカと共通する所は何もないが　技師にはこの塊こそがエリカだとわかっている
姿形はさしたる問題にはならなかった

「……ああ、そういや君の本体ってあっちじゃんね。戻したほうがいい？」

そう問うと白い塊は目に見えてはっきりと上下に揺れる
技師は操縦棺の中に水槽の中身を慎重に戻し　かさの減った分を追加の溶液で満たす
巻き毛の女は水槽の横から操縦棺の近くへと移動する
そのまま機体の整備へ戻る技師
エリカは前回同様一日ほどですっかり元の姿に戻った


「記憶とか問題無い感じかね」
「多分？」
「結構水減ってたと思うけどなあ。一体どうなってるんだか」
「あー　何となくですけど？　あの液体全取っ換えされたら流石にちょっと記憶怪しくなりそう？　的な？」
「なるほどね？」

技師はエリカの構造に興味が湧いたが　何かあった場合換えがきかないため実験はやめる事にした
エリカと同じ存在を簡単に作れるとも思えない
彼の存在は狂気じみた執念でできている　技師はそれを感じ取っていた
エリカをもう一人作るには同質同量の執念が必要だ　そしてそれは現実的とは到底言えるものではない
そんな物を持っている存在は　技師には画家以外に思いつかなかった


「という訳で緊急時に溶液の一部を入れてオートで電子ロックかかる箱つけといたから」
「でもお高いんでしょう？」
「タダでいいよ？　俺が勝手にやった事だからね」

技師は決して少なくない額の個人資産を費やした
そして巻き毛の女の連絡によりヒースハイデの改造が男にばれ（当然）　費用を強制的に男と折半させられたという

*にゃー*