ENo.0612　P・ドロレス

　　　　　３

　どこかに墓場がある。操縦棺ばかり、六つ並んだだけの墓場が。
　一人目はエメラルド。
　二人目はライオン。
　三人目は百合に。
　四人目はエレファント、
　五人目はラピスラズリ。
　そして六人目は、ロゼッタに。
　それぞれはなむけのように、異なる名前を持つ操縦棺に乗った、六人のライダーたち。
　かつてアイリーン・クリードによって造られ、降霊型試行機体《ネリールース》と呼ばれたこのハイドラは、生き物の埋葬の手順など知る由もなかった。その意味さえも。
　ただくり返し目にする主らの、眠りと朝を理解していただけだ。
　そして孤独の投げる曖昧な輪郭を。
《ネリールース》は搭乗者が死ぬたび、彼女、あるいは彼を乗せていた操縦棺を運び去り、自身から取り外しては、そっと墓場の輪に加えるのだった。いくつかは、運ぶことのできなかった棺もあるだろう。撃墜後すぐ、《ネリールース》の胸から持ち去られてしまった棺や亡骸も、少なくないはずだった。
　それらの操縦棺は、《それ》の鈍間で危うい腕によって、残像領域のある一画に並べられている。地表に規則正しい列を成し、埋められず、剥き出しのまま。長年の霧と塵に、汚れを積もらせて。それぞれの操縦棺を、乗り主の思い出を眠らせる、文字通りの永遠の棺として。
　一人目の搭乗者であり、《ネリールース》の製作者でもあるアイリーンは、潰れひしゃげた血まみれの操縦棺に横たわり、死体は何者かに回収されたまま、二度と《それ》の前に戻ってくることはなかった。彼女は棺のなかから速やかに取り出され、そしておそらくは埋葬された。彼女の死体の行方を知るすべは《ネリールース》にはなかった。
《それ》は完成時にアイリーンから与えられたわずかな志向性と、霧と電磁波、そしてアイリーンの心臓から流れた血によって芽生えたものを保持したまま、けれどそのことを誰かに把握されることはなく、長い間捨て置かれた。拾い上げる人間はなかなか現れない。戦うことではなく、死者の降霊を目的に造られた《ネリールース》は、お世辞にも「強い機体」とは言えなかったからだ。
《それ》は主人の不在にまごついたまま、ただじっとガレージの隅で埃を被った。時折流れるわずかな電磁波と、入りこむ霧を糧として。自発的に意思を示す手段も発想も、そのころには持ち合わせていなかった。
（霧、そして電磁波。大事なのはこのふたつだけ）
　残像領域を満たすこのふたつは、やがて《ネリールース》に不可思議な変容をもたらした。
　つまり、ネリリし、キルルし、ハララするということを。
《それ》は、二人目、三人目のいずれも思い入れ深いライダーたちの搭乗を経て、ゆっくりと、しかし確かにその質を変えていった。三人目の「ごしゅじん」は、《ネリールース》にあどけなく他愛ない音声ガイドを組みこんだ。ごく単純な、そのために壊れにくい代物を。四人目は、それよりもはるかに滑らかな意思疎通の手段である、電子パネルのメッセージボードを与えた。
　やがて誰ともなく、目に見えぬ《それ》のことを、《ネリリ》、と呼ぶようになった。

　ぴりり、と
　した
　くうき　ねりり
　あんまりすきじゃない
　きりの深い方が、ねりり
　いきをしやすくて
　すきよ
　ねりり
　それは
　うん
　弾、は、あたりにくい
　けど
　でも、
　ぴりぴり
　ぴりりりりり
　すると、きーーーーんと
　する
　あんまりすきじゃない
　ねりり
　きょうも
　ねりり、
　まま
　うふふふふ
　ねりり
　きょう、も
　たくさんたくさん
　ばんばんしたよ
　ばんばん、ばちばち
　どんどん
　ばーーーん
　ねりり
　まま
　だいすきよ
　まま
　いつになったら、
　あえるかしら
　まま……

《廻帰財団アルファ・ラルファ》：

　残像領域にいつからか存在する、霊的研究・実験出資機関。
　霊障と霧、電磁波に関係する機体のアセンブル、およびこれらの研究・実験に対し出資を行う。

　過去には、
　溶解性搭乗機体《トラップドア》、
　生体型完全自律駆動機体《ブラックウィドウ》、
　降霊型試行機体《ネリールース》などのアセンブルに関わっている。


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《廻帰財団アルファ・ラルファ》は研究・実験のための出資機関であり、ユニオン参加者へじっさいに資金提供を行います。

　送金処理は毎更新ごとに、ENo.0612より行われます。
（出資額はそれほど高額ではありません。100～200c程度を予定していますが、変更もあるかと思います）
　
　ユニオンへの参加は、ENo.0612宛てのメッセージにて、研究・実験内容を申請してください。
　厳正なる審査ののち、返信メッセージとともに承認します。
　申請についてはP・ドロレスではなく、《廻帰財団アルファ・ラルファ》のオペレーターが対応します。


　なお、ENo.0612は毎更新、死亡許容で登録します。
　死亡した場合は同キャラクターを再登録し、再登録後は同ユニオンを設立する予定です。
　キャラクターの撃墜・死亡によってユニオンが解体されてしまった場合、それまでの参加者はユニオン再設立後に承認します。

　
　*** 整備特化 ***