ENo.0261　Solitus

この世界に来る前、乗っていた移動用の魔導機械から、歯車を一つ取り外す。
所々が錆びついているようにも見える小さな歯車――ぱっと見た感じでは、ただの小さな歯車にしか見えないが、特別なものであることはカナエが一番よく知っている。
カナエたちが過ごしていた絡繰世界「マギカマキナ」の空気に適応できるように、マギカマキナの魔法に耐えることができるようにする効果がある特殊な歯車だ。
小さなそれを手の平の上で転がしたのち、カナエはソリトゥスのほうを見る。

この戦争が終われば、ハイドラライダーはきっとお払い箱になる――ソーナはどう考えているかわからないが、カナエはそうなるだろうと考えている。
ハイドラライダーもウォーハイドラも戦うための存在だ、この残像領域が平和になれば戦うための存在は必要なくなることがほとんどだ。
そうなったとき、カナエは自分のウォーハイドラを――ソリトゥスを盗むつもりでいる。
そのためには、この小さな歯車の力が必要になってくる。

「せっかくソリトゥスを盗んでも、俺たちの世界の空気に合わないと意味がないからね」

静かな空間で一人呟き、カナエは歯車の穴からソリトゥスを覗き見る。
ソリトゥスはソーナの歌に反応した、ならこの歯車の力にも反応してくれるとカナエは予想している。
ソーナの歌に反応するときにかかる負担も大きく軽減できるし、マギカマキナの空気にも適応できるようになるから悪いことばかりではないはずだ。
歯車をぐっと握り込み、メンテナンスが終わったばかりのソリトゥスに近づくと、カナエは自分よりも大きな足をそっと撫でる。

「楽しみにしててよ、ソリトゥス。俺はお前の前の乗り手みたいに、お前を置いて去っていったりしないからさ？」

いたずらっぽく笑みを浮かべて、一言、話しかけるときのように心を紡ぐ。
――ソーナのようにソリトゥスの表情をはっきりと理解することはできないけれど、なんだか笑っているような気がした。