ENo.0682　ガブリエラ・α=8・ストークス

いまや残響でしかなった。

残像領域、戦場を覆う霧は、何もかもを曖昧にする。
霧の向こうには、誰かがいるかもしれない。
霧に覆われた影は、もしかして死んでいったあの人かもしれない。
そうした曖昧、可能性こそが、わたしの侵入経路だった。
ガブリエラ・ストークスの機体がそこにあるかもしれない。
そう思わせることが必要だった。

しかし霧は晴れてしまった。何もかもは明るみに晒され、存在するかもしれない、という疑念は暴かれた。
いないものはいない。存在しない人間は現れない。存在密度は光のもとで、二値化される。いるかいないかの二つに分けられ、いるかもしれないというステートを破棄する。

私が今もなおα＝0位相空間に干渉できるのは、それはまがいなりにも存在を刻み続けた結果だった。敵機を落とし、言葉を交わし、戦場の功績が認められた証だった。
しかし残響は急激に減衰していく。高められた存在密度が急速に失われていくのを感じる。全ては明るみにさらされる。幽霊などいなかったのだと。