ENo.0326　〈家族〉

あれから結局、ガキの方は3日ほど眠っていた。
1日も経てば俺も落ち着いた。虚像の父親に怯えるほど子供では居られないというわけだ。
次の出撃でまたこいつを使う。拾った者は有効活用だ。


……ガキが気絶している間に勝手に調べさせてもらって判ったのは、こいつらは、まさしく《家族》だということ。
頭部に男のガキ、胸部は女のガキが、下半身に大人の女をくっつけた、ブラックマーケットでも苦笑いするようなキメラだ。おまけにご丁寧に足は"取り外されている"。
グッチャグチャだから適当に洗ってやろうとして、ああそりゃあ軽いはずだよな。足もねえし上半身は女のガキだ。人間キメラにくっついたグッチャグチャのメイド服を取り外したら貞操帯があった時の気持ちってやつは、多分一生に一度しか得られないものだろうよ。クソが。


拡張頭脳の取り外しに表面を調べていたら"我が愛しき娘"と"不貞の妻"とそれぞれ刻印されていた。
全くもってこの雇い主は

ゲロクソ塗れのルールで調整された女――母親だろう――の脳は、戦闘以外では使い物にならないということだ。
ルールを読み解く限り、この女のロジックは『献身』。もとい、自己犠牲。またの名を、弾除け肉袋。
バカでけえ機体はそういうことだ。まともに動きもしねえ、木偶の坊。
こいつらのクソ雇い主――父親と呼ぶのも憚られた――を守りながら威光を知らしめる。
もっとも威光を知らしめるって割にはこいつの造形はちと悪趣味が過ぎた。

……ご丁寧に女のログが残っていた。わざわざこれを残させたのか、あの雇い主サマはよ。この元脳味噌を調節した技師のツラが見てみてえ、きっと今の俺と同じ顔をしている。
ログにあった顔はまさしく、あの男――元客の顔だ。
この世に倫理があるならば、口にするのが憚られるような誹りを浴びせながら、半狂乱で鞭を振るっていた。
なんでも精神科医に色目を使った不貞の女、と。思わず鼻で笑っちまった。
病院で悩みを相談してこんな大手術とは、なんつうかツイてない女だよ。
まあつまり、謝罪の言葉しか口にしないこの女は、この悪夢を永遠に見せられているわけだ。

もう、いいんじゃないか。俺は出来る限りの手管で女を『取り外し』てやった。
……このハコをどうするかは、ガキが起きて決めればいい。今はとにかく、稼がせるにはこの女は少し邪魔すぎた。
……片手で持てる人間だったものを、できるだけ丁重に。メンテナンス台の端っこに置いてやった。

ただ無言で射撃する