ENo.0510　ODE-30

【音声記録：5769　再生開始】

　………
　………
　………

はい、オード・サーティです。

霧が晴れ、大地が脈動する。
氷は融け、芽吹きの春がやってくる。

誰かが、それを望んだのでしょうか。
それとも。

　………
　………
　………

私は、AIでした。
ある戦闘用機構の、AIでした。
そうして、初陣となった戦場で、
私のパイロットは、あっけなく死にました。

機体も破損しましたが、私はAIでしたので、
ブラックボックスと共に回収され、
そして、新たな機体とパイロットを得て、
再度戦場に舞い戻り、

そして、また破壊されました。

パイロットの質が悪かった？
いいえ、相手も同程度。
機体の質が悪かった？
いいえ、相手も同機能。
AIの質が悪かった？
いいえ、いいえ、なぜなら我らは。

そう。
私は学習型AI。
私の名前は30番。
Odeと呼ばれる集合知、128存在したそれの、
30番。最後に残った、血と智の結晶。

そんなものを作るために。
そんなものを作るために。
嗚呼、そんなものを作るためだけに。
何体の機体をクズ鉄にし、
何人を死なせてしまったのでしょう。

　………
　………
　………

敗色濃厚な戦況において、一発逆転を狙うには
少数精鋭で敵の中枢を破壊するしかありません。

誰よりも強い機体が必要でした。
何よりも強いAIが必要でした。
けれども戦場でデータを取るには、
『彼ら』は負け過ぎていた。
撃墜されるまでは良いとしても、限りある
データが損壊・紛失するのは防ぎたい。
だから、手元でそれを行ったのです。

年端も行かない子供たちを乗せて。
最後の一機になるまで殺し合わせて。
回収できたブラックボックスを次の機体に乗せ。
データを一点に蓄積し続けて。

それを。
ブラックボックスごと破損し、残ったAIが
ごく少数になるまで、続けました。

そうして、残った私を、最新鋭の機体に搭載し。
残されたパイロットの中でも、最も適応力が
高い若者を乗せて。
私たちは、最後の任務に赴き──

それを、成し遂げたのです。
単騎で敵の中枢に突入し。
穴だらけになりながらも、そこにいた
敵勢力のトップを攻撃、これを殺害しました。

その、結果。

既に思想が狂ってしまっていたA国と、
優れた統率者を喪ったB国は。
互いに、争いを止める方法も、
終結させる方法も失い……

共に、滅びました。
最後の一人まで、殺し合って。

　………
　………
　………

私は、恐れています。

因果のねじれが解ければ、私はきっと
あの無人の荒野に戻るのでしょう。
けれど、それが怖いのではない。

私は───『彼』に。
かつてのパイロットに、誓ったのです。
もう、私の機体に乗せた者を、
決して死なせはしないと。

だから。

タジマ　キリカ。
彼女が。
私の手の届かない所で、無為に死を迎える。
それが、嗚呼、とても恐ろしい───

　………
　………
　………

『大丈夫ですよ。

　私と、彼らが、必ず』

　………
　………
　………

そう。
そう、ですね。
あなたが。彼らが。

きっと、──見つけてくれますね。

よろしくお願いします、我が半身。

どうか。
この地に芽吹くものが、
希望の象徴でありますように。

　………
　………
　………

【音声記録：5769　再生終了】