ENo.0148　ヒト・ゴルドラブ

ヒト・ゴルドラブには血の繋がっていない兄がいました。
父を別に持つ二人でしたが、兄はヒトの面倒をよく見て世話を焼き、
ヒトも兄にとても懐いていました。
母が病死し、祖父との三人暮らしになってからも、それは変わりませんでした。

兄は、少し『変わった』見た目をしており、加えて不思議な力を持っていました。
そのことを街の大人たちはよく思っていませんでしたが、小さいころから奔放だったヒトはそんなことは気にせず、
兄を尊敬し続けました。

祖父が天国へ旅立った後、ヒト達はとある夫婦に引き取られます。
夫婦の狙いはずばりヒト達の祖父の残した遺産でした。
そのことになんとなく気づいていた二人でしたが、お金に興味のなかった二人は特に気にしませんでした。
その夫婦はなんとかして、『異形』の兄を排除しようとしますが、その度にヒトが兄を、そして兄がヒトを守るのでした。


ヒトが12歳、兄が15歳になった年のことです。
その日は春の陽気が差し込み、ぽかぽかと暖かい、よく晴れた日でした。
ヒトは兄を誘い、気まぐれに山に遊びにでました。
山といっても小さい山で、見通しもよく、危険はないはずでした。

しかしどこに潜んでいたのでしょうか。
二人は野盗に襲われ、ヒトを庇った兄は捕らえられてしまいます。
野盗達は言いました。兄を無事返して欲しければ、金を寄越せ。
提示された金額は、大変高額でしたが、祖父から受け継いだ遺産があれば、十分払うことができます。

ヒトは走り、保護者である夫婦に事の顛末を話し、懇願しました。
兄を助けて、と。
夫婦の答えはただ一言、それは拒絶を表す言葉でした。
ヒトは泣き叫びました。なら、自警団に依頼を、と言うとそんな金はないと突っぱねられます。
ヒトたちの遺産はどこへいってしまったのでしょうか。
夫婦は加えてこう言います。あいつのことは忘れろ、と。

ヒトは泣きながら野盗達の元へ向かいました。
絶対にお金は払う、何年掛かっても、なにをしてでも払うから。
野盗達に話が通じるでしょうか。もし通じなければ…
その手には草刈り鎌の『狩花』が握られていました。

しかし、覚悟を決めたヒトの目に飛び込んできたのは、ただただ赤い光景でした。
草地は赤い絨毯と化し、桃色に咲き誇る花々は、赤黒く染まっています。
それは大量の血によるものでした。
兄も、野盗達も、見つかりませんでした。
そして1年が経ちました。
兄は、帰ってきませんでした。

13歳の誕生日、ヒトは家をでます。兄を探す旅に出ます。
どうしたら兄が見つかるでしょうか。
どうしたら兄の目に止まるでしょうか。
そうだ、とにかく目立つことをしよう。
その地に名前が残るような、大きなことをしよう。
そのためには、お金が必要だ。たくさんたくさん必要だ。

ヒトは旅人です。お金を稼ぐ、旅人です――

さて、お金は十分稼げたし、そろそろこの地に名前は残せたかしら？
後は……生きて、また会いましょう。