ENo.0429　リグ

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「先生！ほんとに……いっちゃうんだね」
「うん。もっといたかったけれど……でも、私はもっと色々なところに行く。そう決めてたから」
「そっか……ね、ねぇねぇ先生、私ね、先生みたいにはなれないけど……」
「そこ諦めちゃうかー」
「立場ってものがあるの！最後まで聞いてよもう！……でね、先生みたいにはなれないけど……あちこち旅して、なんてことはできないけど、ここを豊かにして、先生みたいな人たちを手助けできればな……って思ったの」
「……うん、いいよ、すごくいい。あなたならできるよ」
「えへへ、次に先生がくるころにはきっと、ちょっとでも成果、見せられると思うから」
「じゃあ明日また来るね」
「もー！いじわるー！」
「「あははははは」」
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……夢を、見ていた。最初の教え子の……そして、最後になると「思っていた」教え子の夢だ。
あれから長い月日が経ち、色々な事があった。そう、色々だ。
最早仔細も思い出せず、「色々」とひとまとめにするぐらいでしか語りようがない。かろうじて思い出の体裁を保っているかどうかさえ怪しい出来事の数々。
そんな中で彼女のことを思い出せたのは、やはりそれだけ印象に残っていたのだろう。特別だったのだろう。
ついぞ彼女のもとへ再び訪れることは叶わず、彼女がその後いかに過ごし、暮らし、生きたのか知る由もないが、きっと自らの信じる道を全うしたと思いたい。
感傷にひたりながら湿気た布団をかけ直す。窓から差し込む日光で暖かくはなってきたものの、まだ少々寒さは残っている。
……日光？ いやまさか、いや、いやそんな、まさか。
徐に起き上がり外を覗く。青空だ。残像領域を訪れてからこのかた目にしたことのない、青空だ。これから何か新しいことが起こるような、そういった清々しさを湛えた青空だ。
「……うまくいった、ということか」
霧が晴れた、ということは……大隊が、あるいはレジスタンスや残党達かもしれないが、霜の巨人を打ち倒したということだ。
あちらの状況をこちらから窺い知ることは出来ないが、知らないからこそ、連絡を入れてあちらの手を煩わす結果になることは避けたい。
そう思いながら所在なさげにしていると、連絡が入ったことを報せるビープ音がけたたましく鳴り響いた。
勝利の一報を入れてくるとは全く可愛い奴じゃあないか、別にそうわざわざする必要もありゃしないのに、まったく……
『こんにちは！嬢がお世話になっております！』
「……誰？」
違った。柄にもなく胸をときめかせて損したじゃないか。私の純情を返せ。
『あ、すみません、申し遅れました！私、嬢……もといエンセイルちゃんの友達をさせて頂いております、ミソラと申します！』
「はあ」
類は友を呼ぶ、そういう言葉が脳をよぎった。
このグイグイ押しかけてくる感じ、エンセイルと同類のような印象を受ける。
『エンセイルは出撃してますでしょうか？ ちょっと彼女と話したいことがありましてぇ』
「ああ、連絡を取りたいのか。だったら――」
戦場での連絡先を教えていないのか。まあ確かに私が出ている間にかかってきたりでもすれば面倒なことにもなろうが、あいつがそこまで気を遣うタイプだったとは。あるいは、ただズボラだったか。
どちらにせよ、今更教えたところで支障はあるまい。順当にいけばもう大きい戦いは起こらないだろうし。
『ありがとうございますー！ではでは～』
連絡先を教えると、それだけ言ってさっくりと通信を切られてしまった。いや、こういう手合は疲れるからあまり長く話していたい相手でもなし、早く切ってくれる方が助かりはするのだが……
それにしても、だ。
「あいつ、友達いたんだな……」
いなさそうだと思っていたわけでもないし、いるという話は聞いていたのだが、いざコンタクトを取られて存在を実感すると、またえもいわれぬ感慨があった。
あるいは、心の底では友達がいるというのを疑って……侮っていたのかもしれない。
「……独り身をこじらせたかねえ」
もう一度空を見上げると、空の広がりが、青さが……これまた寂しく、寒々としたものに見えた。