ENo.0406　ファイブカード

　
機体は語らない。

『ファイブカード』は乗り手の居ないままに動き、戦場へ向かい、戦っている。
かつての行いを繰り返すかのように。
あたかも自身の役目を果たすかのように。
しかしその目的を語る口は持たず、沈黙のままに戦火を交えている。



機体は語らない。

結局のところ『ファイブカード』の行ったことは、
この時世の残像領域に現れ、
かつての乗り手を産み直し、
時にはこうして乗り手の操縦をトレースし動くこと。
それらに尽きるものだった。
ハイドラ大隊の一席を占める以上の存在ではなく、
他のライダーを残像へと誘うこともなく。



機体は語らない。

ハイドラ大隊が動く中にその機体はあった。
企業間闘争の代理。
遺跡要塞の攻略。
コロッセオでの喰い合い。
残像領域の幕引きと夜明けの介添え。
それらはハイドラライダーが、ウォーハイドラが、求められる役割だった。
それを『ファイブカード』は果たし続けた。
それが目的であったかは語られぬままに。



機体は語らない。

機体は語らず、軌跡のみを遺す。
成した結果はただ受け継がれる。
軌跡と結果とを解釈し説明するのは、自身ではなく人に委ねられていた。

その機体は、残像領域の節目となる時分を見出して現れたようにも見えた。
その機体は、他のハイドラを守るために矢面に立っているようにも見えた。
その機体は、ただ戦果のみを追い求めているようにも見えた。
その機体は、どの勢力にも深く属すことを避けているようにも見えた。
それらは全て、外からの解釈でしかなかった。
機体は語らず、その意思は霧の向こうに覆い隠されている。



機体は語らない。

だからこそ、この物語は人によって語られるものだった。
『ファイブカード』とは、一体どんな機体だったのか？
一体何を行い、何を残したのか？



　　　　　──あなたの目には、どう映りましたか？



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『ファイブカード』が景色の向こうへ溶けていく。

40回目の戦場を最後に、『ファイブカード』は残像領域と呼ばれるこの世界から姿を消した。
最後までその機体は何を語ることもなく、しかし最後までハイドラ大隊の名簿にその名を残していた。

かつての乗り手たちの遺したもの。

今はもう何もない。