ENo.0414　Y・橘・リィンドッグ

目が醒めると、辺りは爆音だった。

ユートピアシステムに目覚まし時計は搭載していなかったはずだが…。と、寝ぼけ眼で上体を起こす。
bootの音、機体の駆動音。
心地よく響き渡り、僅かな振動をカラダに伝える。
寝起きというものはそれだけで心地いい。
段々と意識が覚醒していき、霧の匂いを感じて、目を、


ドオオオォオォォオオオオン！！


爆音。突如大きく機体が揺らいだ。何かがユートピアに直撃したらしい。
そこで漸くわかった。
橘は戦場のド真ん中で寝ていたのだ。
いや、言えば寝てたらそこが戦場と化していたといったほうが正しいか。
どちらにせよ、現在動かない的と化しているのは見て取れる。撃墜されるのは時間の問題だ。
食事もまだだというのに食事されるわけにはいかない。
橘は操縦桿を握り、機体を損傷させた先の方角へと向き直った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





結果は惨敗であった。

撃墜された後、低空の霧の下で動けずにいたが、追撃はなかった。お陰でこうして生きていられる。
寝起きに空腹に不意打ちと、言い訳ならいくらでも出てくるが結果は結果。
そんなことを言っても死ぬ時は死ぬ。
橘はそれはよく知っていた。
この場所━残像領域━にいる期間は短くない。きっと長くもないが。



しかしいいこともあった。

たくさんのハイドライダー、その機体の数々。それを見た。
どれも個性的だ。索敵するもの、破壊するもの、壁となるもの、高く飛ぶもの、駆け抜けるもの。
一度にこんなに機体を見たのはいつぶりだろうか。
霧から現れ消えていくそれは色とりどりの宝石のようだ。
もっと見たい。



…そのためにはまず、機体を再生させて、もっと強いパーツを結合して、それから



目覚まし機能も搭載しようか、と。

まだ濃い霧の空を眺めて橘は思案した。

『＿＿＿誰かいるのか？………いるなら返事を＿、…＿』


霧に包まれた路地裏だ。
貴方はここに立ち寄ってもいいし、過ぎ去ってもいい。