ENo.0452　レイン・ロックサイド

「……酷いな。」

　報告書に眼を通し、その素直な感想を吐き捨てるように呟いた。
ルート・ロックサイドが亡くなった当日の戦闘報告書を見たが、転戦に次ぐ転戦、そして弾薬さえも尽きた状況で尚戦わせられた結果、ルートは撃墜されたらしい。
企業抗争の為に雇われたハイドラライダーは一度戦場に出れば、雇い主の指示には従わなければならない。
だが、これではライダーの命などまるで考えていませんと言っているようなものだ。
敵機に殺されたと言うよりも寧ろ、企業に殺されたと言っても良いくらいだろう。
怒りがこみ上げる。

　ルート・ロックサイドが亡くなったと言う知らせを受けたのは、奇しくもオレが遺跡に向かう事が決まったその日の夜の事だった。
オレが仕える主であるアロー・アズエルドからその事を知らされた。

「残念だよ、彼には期待していたんだ。」

　通信機から伝わる落胆の声が今でも耳に残っている。
アロー・アズエルドがこのように感情を露わにするのは珍しい。
少なくとも彼はロックサイド家の人間を自分の所有物の様な存在だと思っている。
だから、きっとオレが死んでもこうまでは落胆しないだろう。

　ルートはロックサイド姓を名乗っているが、騎士であるロックサイド家からは袂を別っている。
それは、彼の父親がロックサイド家から出奔したからであるが、だからこそ彼はこのロックサイドという家に縛られなかった。
そんな彼と、年が近いアロー・アズエルドは妙に馬が合ったらしい。
アロー・アズエルドも、ルートという人間をロックサイドという肩書からは外して見ていた様だ。
友と表現すべきだろうか、人付き合いが極端に悪いアロー・アズエルドには珍しいことだった。

　ネリー・アイシャム

　ルートと僚機を組んで居た女性の名だ。
以前、遺跡での企業間抗争が始まった直後に一度だけ通信機越しにルートと話した際は、腕利きの狙撃手ということだった。
報告書を見れば、彼女は最後までルートと僚機だったようだ。
まずは彼女に会って弔意と謝意を伝えなければならないだろう。

　彼女がどういう人間なのかは知らないが、統計的に僚機が死んだ直後のライダーは感情に煽られて無謀な戦闘をし易い。
彼女にルートの後を追わせたところで、ルートは喜ぶとは思えない。
どうにか、冷静になって貰いたいものだ。

アズエルド家

　残存領域辺境のとある王国に権力の地盤を有する貴族。
現当主は病に臥せ、次期当主とされるアロー・アズエルドが当主を代行中。

　政変前は王国内でも屈指の数の騎士を擁していたが、政変で多くの騎士を失い、王国内での発言力も大きく衰えた。
現国王に対して批判的な姿勢を取っており、領内及び王国内で活動する武装勢力「真実の声」を裏でバックアップしているとの噂も立っている。