<<新規録音　１件>>
<<E.No 112　グレース様　より>>

西垣へ

私だ。
件のビデオメッセージを見させてもらったよ。
背後のガードマンの持っているマシンガンは、２世代前ほどに残像領域で流通していたものだ。安くて頑丈ってやつだな。
それからカメラがブレた時に無人ボットらしきものも写り込んでいてこれも同様だ。おそらくこちら側から民間に横流しされたものが、そのままその紅雲会とやらに渡っているのさ。

で、お前さんの地元で無敵の代名詞になっているサキシマ焼夷砲とやら。
見覚えがあったので調べてみたが、これも２世代前にこちらで流行った焼夷機関砲の模造品だ。ずいぶん下品な改造をしたものだよ。構造がシンプルだから、チンピラの玩具には丁度よかったのかも知れないね。

これらが廃れたのには理由があって、世代の終わりに出た電磁障害チャフに手も足も出なかったのさ。
共通の制御構造をしていたから、一発撒かれるだけで軒並み無力化された。
それ以降、傭兵のパーツは制御構造を統一化することがなくなって、このチャフも廃れたがね。

で、お前さんには運がいいことに、私がパーツアドバイザをしていた企業にデッドストックがあってね。ちょっくらエイドリーに拾いにいってもらった。
それを榴弾砲の弾頭に仕込んでおいた。
有効範囲は半径200mといったところだから戦場全体とはいかないが、人質のいる倉庫を覆うことはできるだろう。その後、CPUで無人ボットをハックしてやれば、人質の周りの兵は軒並み掃除できる。プログラムも、すでにアクタガワに組み込んである。大したもんじゃないがね。

その後は、まあお前さん次第といったところだが、正直な話、私やヤクモが加勢するまでもないだろう。
アクタガワに施した防御装甲の性能はマルチプレクサで実証済みだ。型落ちの武器ではステッカーすら剥がせないさ。

お前さんは自分をプロでないと言うが、避けることはともかく、当てることに関しては十分過ぎるセンスを持っている。いつも通りにやればいい。

武勇伝を楽しみにしているよ。
以上だ。
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山間から朝日のフレアが差して、朝７時のオガミ山を照らす。

燃え散らかってすっかり禿げ上がってしまったオガミ山には、
紅雲会の大小様々な機体がずらりと並び、その銃口をすべてアクタガワへ向けていた。

一方、アクタガワの方といえば、丸腰にキノコのカゴを背負った百姓じみた格好で、その歓迎ぶりに戸惑うように、時折目を点滅させている。

「兄サン、若えのに大変じゃァのォ！！
　ええで、もうそいつから降りて、とっとと失せて。全部忘れて暮らせや！！」

山の中腹、銀色に光る熊田の機体から声が響く。

「…ガガ。ガガガ。
　あーちょい待ってくださいね。あの。こいつ、指紋認証に自爆仕込んであるんで…。
　それ、外してますから。えーと。これだよな…？」

ビスコがキーボードを叩く音がしばらく拡声器で響いたあと、
背負ったキノコのカゴから「しゅぽん」と間抜けな音がして、何かが放物線を描いて飛び出した。

オガミ山の朝空に、ピンクの煙を描いてひゅるひゅる飛んでいく弾を、その場一同呆然と眺めていて…
ぼふん
と、それが北側倉庫に着弾する。

グレース謹製、電磁障害榴弾砲。
ピンクの煙がまるっと倉庫を覆ってすぐ、倉庫の中からやかましい喧騒と、銃撃の音が聞こえてきた。

「…クソ餓鬼ィ！！！紅雲会、舐めとんかァッ！！！」
「てめえが舐めろや、熊田ァ…地獄で鬼のケツでもよォ！！」
「細切れにしろォ！！」

怒声を合図に、１００を越える銃口が一斉に火を噴く。

「サキシマ焼夷砲30門！！食らって、燃えくされッ！！」

雨のような弾丸の嵐の中でアクタガワはしかし、けろりとした顔でダゴン砲を構える。

「いまさら、サキシマ焼夷砲だァ…？？
　ゲロゲロうるせェんだよ、井戸ガエルども…！！
　こっちは留学帰りだぜッッ！！」

全身火薬庫と化したアクタガワから、無数の弾丸が矢継ぎ早に火を噴く。
紅雲会の機体どもを紙切れのように引き裂きながら、
暴れ狂う鉄神と化したアクタガワは、キャタピラの唸りを雄叫び代わりに、オガミ山へ一直線に突っ込んで行った。