「西垣ィ、お前一人あたりで育てたキノコがよ、どんだけ利益出すか知ってるか？考えたことあるか？」

熱弾が西垣のすぐ脇に着弾し、粉塵が飛び散る。
西垣は衝撃で吹っ飛びながらなんとか受け身を取り、身を隠す次の柱へ向かって転げるように走った。

「月、９千万だってよォ！！わは、わはははは！！月収１５万のお前が、人生削って買うモンなんてよ、俺にとっちゃチロルチョコみてーなもんなんだよ！！お前の、おかげでェ！！」

逃げる西垣を追ってナパームが次々と炸裂し、床を、柱を砕く。

「黙ってッ、飼い殺されてりゃよかったんだよ、てめェも、岡崎もッ！！
　妙な浅知恵つけやがって、ネズミがよッ、分不相応によォッ」

西垣は死に物狂いで走り、間一髪かわし続けたが、次第に倉庫の端に追い詰められ、身を隠す柱も、もう残すところ１本になった。

「わかったか？西垣。お前の惨めさが。救えなさが！
　なんもできねーで、使い潰されて、親より先によ、グスグスの丸焼きになって、死んでくんだよこれから。
　わかったのかよ！！？　おお！？
　反芻しろよ、コラァ！！そしたら死んでいいからよォ！！」

西垣は汗だくの額を一度、煤まみれの手で拭って、深呼吸をひとつする。
そしてゆっくりとタケツグの照らすライトの中に、その姿を晒した。

「あれ？あれあれ？疲れちゃった？
　ビスコ君疲れちゃったかあ。そっか休も！無理よくないもん！休も！」

勝利を確信したタケツグが、ナパームを西垣のほうへ向ける。
ただ、西垣の妙な落ち着きと、さっきまでしていなかった口のガスマスクが、引き金を引くのを戸惑わせた。

「つい、さっきまで…」
「あ？」
「30秒前ぐらいまでよォ、しんどいし、諦めてくたばるつもりだったけどよォ…
　気が、変わったぜ、タケツグてめェ…」
「お前…何持ってる？その持ってるタンクは何だ？」
「おれが根にもつタイプだってよォ…知ってて、言ってくれたんだろ？さっきの。
　危なかったぜェ…危なく、ポリシーに反して…何の復讐もせずに！！…死ぬとこだったぜ…」
「何を持ってんだァッてめェッ！！何だァッそのタンクはァッ！！！」

西垣の手には、倉庫の隅で来月散布予定だった、松茸菌の圧縮タンクがぶら下がっていた。
山ひとつ丸々キノコまみれにする、即効性の培養菌。まさに、オオクラ菌業の儲け主義が産み出した、品の欠片もない代物だった。

「てめェが良く知ってんだろうが…プレゼンしたんだろ？重役会議で。
　危険性は全くありませんって。莫大な儲けになりますっつってよォ」
「バカかッお前ッッ、お前ッッそれが何かッ、それが何だかわかってんのかァッッ」
「それを今からッ！！確かめてやるッてんだよォッ！！！」

西垣はその巨きな体躯を振りかぶって、タンクを熊田のアイアンボットに放り投げた。
熊田がオート操縦を切るより早く、アイアンボットの迎撃レーザーがタンクを捉え、

ぼぐん

と音がして、強烈な衝撃とともに、アイアンボットが吹っ飛ぶ。

「わあ、わあああああ、わああああああ」

転倒したボットから這うようにして逃げ出したタケツグは、
あたりに漂う強烈な異臭に気づいて、慌てて口を塞ぎ、呼吸を止める。

その目の前に、ゆっくり、巨きな影が立ちはだかり、
首根っこを掴んで、宙に持ち上げた。

「むぐーーーー」

「地獄へ、落ちろ…！」

西垣が、熊田の鳩尾を思い切り殴りつける。
タケツグはあまりの苦しさに思い切り眼を見開き、あたりの空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

「あ」
「あ」
「ああ～…」
「ああああああばああああああっっごご！ごぼょっ！
　おぼおぼおぼ。おぼおぼおぼおぼ。
　ひゅうひゅう。ひゅうひゅう。
　ばごぼおおおお」

口、眼、耳、あらゆる穴から、ものすごい速度で松茸が生えてくる。
タケツグは想像を絶する苦しみの中でのたうち、断末魔に絶叫する。

「ぼぎゅううう、う、ううっ！？ううううう！！
　おっ、お
　う」

そのうち、生えた松茸が気道に詰まったのか、熊田のやかましい悲鳴も徐々に聞こえなくなり
全身を松茸に食い破られ、覆われて、ついにその身体を隠してしまった。