記憶が確かならば、この春で、私は大学生になる。なっていたと思う。勉強も碌にしていないし、受験は受けていないし、そもそもどの大学に行くかも決まってはいなかったけれど。此処までは長い時間ではなかった。生きていくのに必死で（それでも十分守られていたと思う。ハイドラライダーとして戦場に立つ今こそが、一番危険な日々だ）泣いてばかりはいられなかったし、幸い、良い人々に巡り合えて今日まで生きてこれた。私は恵まれている。クトレットラに乗るようになって、そんな事を思うようになった。外の世界での私の存在がどうなっているか――それを知る術は無いけれど、お母さんやお父さんが、友人が、まだ覚えていてくれたら嬉しいと思う。こちらでの1年が向こうでの1時間だったなんて、それは夢物語だ。私は夢を見ることを忘れてしまった。未確認機や火を噴きながら転がってくる、何処か可愛いフォルムの敵機に追いかけられる夢なら、毎日のように見るけれども。
　けれども私は、帰ることを諦めたわけじゃない。手掛かりを求めて傭兵団と一緒にあちこちを回る日々の、ひとつの区切りがまた近づいてきただけだ。此処での任務が終われば、また違う場所に仕事を求めて向かうだろうから。その先でまた、探せばいい。見つからなかったら……その時は、少し長い考え事をしなきゃいけない。でもその答えが出るのは、ずっと、先の話。
　
　難しいことを考えたら疲れた。
　せんぱい、まだみかん持ってるかな？今度聞いてみよう。

　此処、共同キッチンとかあったっけ。



（後半、ゆるゆるとした丸文字が取りとめなく連なっている―――）