こんな生活をして久しいから、悪いニュースを聞いても、特に何も感じなくなってしまった。感覚の麻痺というのは存外に怖ろしいもので、いつからか自分が"そう"なっていた事に気付いたのも、平和な世界で生まれ育ったという彼女と組むようになってからだった。

　ハイドロエンジン。不安定な事象。ミスト・アヴェンジャー。不穏なキーワードにこれっぽちの危機感も覚えず、寧ろその後に流れたカピバラの話題の方がまだ興味を引いたなんて、我ながら中々に日和っていると思う。或いは、狂っているのか。
　不安がるいづみに、大丈夫だなんて薄っぺらい言葉しか掛けてやれなかった事を、今になって思い出して少しへこむ。もしかして自分にも、彼女と同じように帰る場所があって、何時かそういう平穏の中に戻る日が来るんじゃないか、などと。虫のいい事を考えてしまっていた所為かもしれない。

「馬鹿だよなァ……」

　初めから持っていないものは、惜しむ事も焦がれる事も出来ない。
　どうしたって、彼女と同じ場所から同じものを見る事は出来ない。
　これまでもこれからも、記憶を失くしたこの身は見送る側に立つしかなく、小さな背が霧の向こうに遠ざかっていくのを見届ける日も何れ来るのだろうと。そう思うと少しだけ、さびしい気がした。