ENo.0147　ナタリー・ナイン

《Nユニットを展開します。カウントダウン、3.2.1――》

――目を開けば、まだ夢の中。
残影領域に湧出した私を、棺桶がゆっくりと包み込んでいく。影のように。

『おはよう、ナタリー。調子はどう？』

「おはようございます、ナタリア。いい気分」

『狂ってるわね。重畳』

姉妹の調子はいつも通り。甘ったるい毒のような声色が、ノイズを交えて笑いを乗せる。重畳、重畳。
私たちはどうやら、相変わらずらしい。

『展開完了、任務終了ね。さあ、どうしましょう？』

「どうしましょう、ですか？　そんなもの、決まってますよ」

展開、展開、情報展開――帰還可能時期まで、そう長くはない。短くもない。ゲームを始めるには適切なセレクタリだ。
息を吸う。
息を吐く。
アサイアメント。コンソールに置かれているのは銀色のカード。
ウォー・ハイドラ……戦うための力……Nユニットが得て、Nユニットが保持する、力。
私だけでは、抗えない。
姉妹だけでも、抗えまい。
だが、私と、姉妹と、『彼女』が居るなら？
あるいは、そう、彼方の王にさえ届くかもしれない。

「いつもの奴です」

『相変わらずね』

「降りますか？」

『放っておける筈無いでしょう？』

「重畳」

初めての会話。初めてのやりとり。そしておそらく、無数に繰り返された応答。
これで何度目だろう？　『再憶（リペア）』された私にその過去は残っていない。
だが示されているのだ。nein《ナイン》。背する九番。うちから湧き出る情動。

霧深い闇の奥底から。

遊び、抗い、戦えと。

『狂ってるわね』

「いつも通りですよ」

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――我々はNユニット。これよりマイスター『フリグラム工房』への叛逆を開始する。