ENo.0391　棺屋《灰霧》

窓から差し込む朝日を浴びて、その勲章は眩く金色に輝いていた。冷たい大理石の卓上にたったひとつ、今はもう存在しない軍事組織の銘が刻まれた過去の栄光が、古びた懐中時計の裏蓋に溶接され、静かに鎮座している。

「······これだけですか？」

勲章を見つめていた妙齢の女が、やっと口を開いた。

「なにか、せめて······遺書のようなものは···」

依頼主の静かな抗議に、赤髪の派手な女、ハ棺屋のハノイは表情を変えることなく、首を横に降った。

「それが、お父様の操縦棺の中にあったすべてです。他には、なにも。」

ハノイの言葉に、依頼主である女はちいさくため息を溢した。

「······本当に、なにも残してはくれなかったのですね。」

ハノイはなにも答えず、卓上のカップに口をつけて紅茶をすすった。依頼主は、構わずに続ける。

「父は······満足だったのでしょうか。独りで、あんな最期を···」

ハノイの横に行儀よく座っていた白髪の少女、棺屋のニムは、なにかを答えようと口を開きかけた。ハノイが、その肩に手をおき、ニムを押し留める。

「戦場で生きて、戦場で死ぬ。他には、なも要らない。それが“ライダーライセンスを得る”と、いうことです。お父様は、還るべき場所へ、還ったにすぎたせん。望むものをすべて手にいれて······」

依頼主の表情が歪んだ。ハノイは意に介せずに続ける。

「もう、解放してあげませんか？お父様を。あなたの身勝手な“愛”から」

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依頼主の屋敷から出るなり、ニムが口を開いた。

「······なぜ？」

ハノイは、紅茶で濡れた顔をハンドタオルで拭きながら、軽い調子で答える。

「なぜって、そりゃ、あんなもんじゃ、なにも言えないだろ？」

依頼主に返還した、とあるライダーの操縦棺。その通信ログの最後には、送信先のない書きかけの独白が、たった一行残されていた。

「······リュブリュー(愛してる)、R···」

依頼主のイニシャルは、R.D.

「ああ、そうだな。んで、ウォーハイドラの機体名も、あのじいさんがいた部隊名も、Rからはじまるな。」

「······」

「な？わかるわけねぇんだよ、人の本音なんてさ。勝手な空想でものを言うのは簡単だけどよ、それじゃ、あのおばさん、前に進めなくなっちまうだろ」

「······」

「······おまえみたいにさ」

「·····]」